12. 贈り物 2
12. 贈り物 2
「じゃ、準備をしよっか?」
「準備?だって、その辺にある雪を丸めて投げりゃあいいんだろ?」
「それじゃ準備はいらないと?」またラベンダーはニヤリと笑う。
「あ、いります。あの、なにを準備すれば……」慌てて下手に出るジン。
「そうね~。ま、弾除けの盾でも用意しといたほうがいいんじゃない?」
「盾ね~?」
「いらないなら、いいから」
「え、あ。いりますいります」
いつになく、不敵な笑いを浮かべるラベンダーの顔を見てジンは思わず不安に駆られ、慌てて盾になりそうなものを家の中に探しに行った。それから庭に出た二人は、左右に分かれて陣を取る。
「ジンは初心者だから、バロンもそっちのチームでいいから」
「え?それってハンディをもらったことになるわけ?」
「うん、そのつもりだけど?」
「そういえばさ、雪合戦って雪の玉を投げ合うんだろ?」
「そう説明したはずだけど?」
「お前一人でどうやって遊んでたの?それともフローラ相手にやってたの?」
「小さい頃はフローラもやってくれたけど、最近はずっとバロン相手にやってたかな」
「相手がバロンって……。バロンは雪を投げられないだろ?」
「まあね」
「それじゃあ雪合戦にならないじゃん?」
「バロンは雪は投げてこないけどさ~、当たる前に雪の玉を食べちゃうの……。だから私が投げ疲れるか、バロンが逃げ出すかの体力勝負って感じだけどね」
「え?お前雪なんか食べちゃうの?こんな冷たいもの食べたら、おなか壊すぞ?」思わずジンは、足元のバロンの顔を見下ろす。
「準備いい?」ラベンダーの声がかかる。
「あ、うんいいよっ……、ぁぶねっ!」と答えるや否や、いきなりものすごい勢いの白いものがジンの顔を掠めていく。
「え?い、今のなに?」
「ほら、逃げないと当たるわよ!」
「え?今の雪の玉なの?まじ?……」
その後、とてつもない量の雪の玉をしこたまぶつけられ、ジンはあっけなくギブアップした。 寒さで鼻の頭も頬も真っ赤にした大きな子供二人が、肩を並べて暖炉に当たっている様子を見てフローラは思わず苦笑を漏らした。
「あんなのありかよ!」
雪の玉が当たったところが傷むのか、ジンはからだのあちらこちらをさすりながらラベンダーを睨みつける。
「あら?平気でよけられるようなこと言ってたの、誰だっけ?」
「だって、まさかあんな勢いで飛んでくると思わないし?」ジンはブツブツと独り言のように文句を言う。
「あ、言わなかったっけ?」ラベンダーは悪戯っ子のような笑顔を向けてくる。
「ん?」
「バロンは結構すばしっこいから、当てようと思うと早い玉を投げないとだめなのよ。遅い球だと食べちゃうしね」
「それにしても……、初心者相手に手加減なしだもんな~」ジンが不貞腐れたようにこぼすと、ラベンダーは楽しそうに、クツクツと笑う。
「なんだよお前、そんなに俺のことを負かして楽しい?」
「う~ん、楽しいっていうか、嬉しい?」
「なんで?」ムッとして聞き返すジン。
「ジンさ、最近背がズンズン伸びてるって感じなのに、私は全然伸びないし」
「そうか?そんなに伸びてないだろ?って、背と雪合戦となんの関係があるんだよ?それに、俺は年上なんだし、男なんだからお前よりも背が高くても当たり前だろ?」ジンの質問には答えずに、ラベンダーは言葉を続ける。
「それにさ、なんかいつも大人っていうか、落ち着いてるっていうか?二つ違いには思えないし……」
「だから、俺のほうが年上なんだから当たり前だろ?」
「それにさ……」
「まだあんのかよ?」
「なんでも、直ぐに覚えて上手にできるようになっちゃってさ!」
「そんな……。俺だって必死なんだぞ?」
「そうかな~?なんか私、ジンには負けてばっかりって感じでさ~。雪合戦くらいでしか勝てないんだもん」
ラベンダーは、少し口を尖らせてチラッとジンのほうを見る。そのラベンダーの顔がドキッとするほどかわいく見えて、一瞬ジンの鼓動が早くなる。慌てて視線を逸らせたジンは、ラベンダーが負けてばっかりだなんてことはない、やられてばっかりなのは俺のほうだと思った。ジンに視線をそらされたラベンダーは、ジンの機嫌を損ねたのかと思って慌てて言葉をつなぐ。
「結構バロンも雪の玉食べて、ジンのこと防御してくれてたと思うけど?」
確かに、何回もバロンがジンの前に躍り出て飛んでくる雪の玉をパクリと食べてくれた。つまり、ラベンダーがジンに与えてくれたハンディとは、そのことだったらしい。ジンは、隣に横たわるバロンの頭を撫でる。
「確かに、大活躍だったよ」頭を撫でられたバロンは、起き上がると「ワン」と吼えてジンに飛びついて、顔をペロペロと舐めてきた。
「わぁ……ってオイ!」バロンの重さに耐え切れずにジンが仰向けに寝転んでも、バロンはまだジンの顔を舐めてきた。
「こら、くすぐったいから」
その様子を見たラベンダーは、まるで小さな子供のようにクククッと笑う。その笑顔は数日前のメリーベルの一件を忘れているように見えた。ラベンダーがメリーベルのことを忘れることはないだろう。でも、無理に忘れることもないとジンは思う。いや、忘れてはいけないのかもしれないとさえ思う。しかし、こんな何気ない日常を重ねていくことで、ラベンダーの中のメリーベルを失った悲しみが少しずつでも薄れていってくれたらいいと願った。