12. 贈り物 1
12. 贈り物 1
その日は珍しく、朝、ラベンダーがジンを起こしにやってきた。
「ジン、起きて!」
「ん~」
「ねえジンってば、起きてよ!」
「ん~」返事はするものの、一向にジンは起きようとしない。
「ほら、起きろジン!」ラベンダーは、ジンの布団を少し捲くって起こそうとする。
「ん?え?もう起きる時間?」
ジンは面倒くさそうに、片目だけ薄く開けて枕もとの時計を確認するが、まだいつもの起床時間まで1時間もある。
「もー勘弁してよー。俺昨日、フローラの手伝いしてて寝るの遅かったんだから!」
相変わらず目は閉じたまま、ラベンダーに捲くられた布団に手を伸ばして、頭まですっぽりとかぶりなおす。
「あー、もう!いつまでも寝てると溶けちゃうでしょ!」
以前寝坊しているジンに向かって、ラベンダーが「そんなに寝てばかりいると、目が溶けるぞ!」と言ったことがあり、ラベンダーがまたそのことを言っているのだと思った。
「寝坊してるわけじゃないんだから、ご心配いただかなくても目は溶けません!ということで、おやすみ」
布団から顔を出してラベンダーにそういうと、また布団にもぐろうとするジン。
「あ、ちょっと待ってよ……。あ、あ~~」
その時、ポタッっとジンの顔に何か冷たいものが垂れてきた。
「ひゃっ、冷てぇ!なにすんだ!……」とジンが言い終わらないうちに、またベチョッと冷たい塊が落ちた。
「わぁ!」
「ほらね、だから溶けちゃうって言ったのに!」
「お前ね~、朝っぱらから、なに訳わかんないこと言ってるんだよ!!」
無理やり起こされた上にいきなり冷たいものを浴びせられて、ジンは憤慨してラベンダーに怒鳴った。
「なんだ、楽しみにしてたからわざわざ持ってきてあげたのに!」怒っているのはジンのはずであったのだが、いきなりラベンダーの機嫌が悪くなる。
「わざわざって……、わざわざ悪戯しに来て、なに怒ってるんだよ!」
「悪戯じゃない!溶けちゃっただけよ!」
「溶けた?」
「ジンがなかなか起きないから、雪が溶けちゃっただけでしょ!」
「ゆ・き?」
「うん、雪!」
「雪?雪が降ったの?まじ?」
「うん。だから、早く見せてあげようとと思って持ってきたの!」ほら!といって、小さな器の中にとけ残った雪を見せる。
「で?これが雪?」
「あ、こっちこっち!」
そういうと、ラベンダーはガラス窓を開け、重いよろい戸を開け放つ。すると、目が開けていられないほどのまばゆい光が飛び込んできた。
「わっ」ジンは慌ててギュッと目を瞑り、顔の前に腕をかざし、それからそっと目を開きながら腕を下げる。
「うぉ~、すごい!!全部真っ白だ!すごいすごい!」
雪を始めてみるジンは、まるで小さな子供のように興奮して、すごいすごいを連発し、寒いから窓閉めるよとラベンダーが窓を閉めようとしても、なかなかうんとは言わなかった。
朝食の後、ジンは店の外にでて、降りしきる雪の中に居た。しゃがみこんで手に雪を取る。初めて手にする、雪の冷たくサラサラした感触が心地いい。視線を上げると、山も森もすべて、見渡す限り真っ白に雪が降り積もっている。
ジンは、数日前のお告げのほこらのオンジのことを思い出していた。この雪の白さが、エルドラの邪悪な魔法をすべて白紙に戻してくれているような気がした。オンジが雪と一緒にそんな安心感もジンに贈ってくれたようで嬉しかった。
「ねね、雪合戦やろうか?」ラベンダーがジンに向かって、悪戯っ子のような笑みを浮かべて話しかけてきた。
「ゆきがっせん?」
「知らない?あのね、あっちとこっちに分かれて雪の玉を投げあうの」
「え、それ面白そう!やるやる!」
初めての雪にお子さまモード全開のジンは、瞳をキラキラと輝かせてやすやすとラベンダーの作戦に乗ってきた。
「いい?ルールは簡単。雪の玉を投げ合うだけ。雪の玉って結構痛かったりするから、もうだめってギブアップしたほうが負け」
「ふ~ん。そんなんでいいんだ」
「なに?子供の遊びだと思って馬鹿にしてるでしょ?」
「べつに~。そっちこそ、初心者だと思って甘く見てるだろ?俺これでも運動神経いいんだぞ!」
「ほほー、それじゃあギブアップをしない自信があると?」
「もちろん!」
その瞬間、ラベンダーは恐ろしいほど含みを持った笑顔でニヤッと笑った。ジンはその笑顔を見て、自分がとんでもない勝負を買ってしまったのではないか?と背中に悪寒が走るのを感じた。