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ラベンダーの空  作者: 凌月 葉
11. お告げのほこら
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11. お告げのほこら 6

11. お告げのほこら 6


 ラベンダーは、黒い霧のようなものが立ち込める暗闇の中をさまよっていた。あてもなく暫く歩いていると、どこかで自分の名前を呼ばれたような気がして顔を上げた。少し離れたところに微かに光のようなものが現れその中にメリーベルの姿が見えた。


「メリーベル!」ラベンダーは思わず声を上げ手を伸ばす。しかし、その手はメリーベルには届かない。


「待って、メリーベル!行かないで!」


 ラベンダーはそう叫ぶと、メリーベルの姿を追いかけようとした。しかしその途端誰かに肩をグッとつかまれて引き戻される。


「メリーベル!」ラベンダーはもう一度彼女の名前を叫んだがその直後に、自分の意識が遠くなるのを感じて目を閉じた。


 それからどのくらいの時間が経ったのだろうか?ラベンダーは自分が、暗い意識の底からゆっくりと浮上してくるような感覚を覚えた。薄っすらと目を開くと、ボウッとした明かりの中に浮かぶものが見えた。


「ここは……」


 灯りの中に浮かんで見えたのは、見覚えのある自分の部屋の天井だった。


(そっか、ここは私の部屋なんだ)


 少しずつはっきりしていく意識のなかで、自分がどこに居るのかを認識して、寝返りを打とうとした。すると、自分の左手の上に何かが載せられているような重みを感じた。だんだん意識がはっきりしてくると、手のひらだけではなく何かが、自分の手首のあたりにふわふわと掠めて揺れているのを感じた。そっと、視線を左手のほうに移すと、なにか茶色い塊が微かに揺れているのが見えた。


「……、バロン?……」


 小さく掠れた声で呼びかけると、茶色の塊がビクンっと動いてから、スッと体を起こした。


「ん~、ラヴァン?」体を起こした塊がそう呼びかけてきた。


「ジン?」


「よかった、目が覚めたんだ」ホットしたような笑顔で、ジンがラベンダーの顔を覗き込んできた。


「私どうして……」


「山道で倒れてたんだよ。もう、びっくりして心臓飛び出すかと思ったぞ!」


「山道で……。あ、メリーベルは?私、白い花を探しに行かなきゃ!」


 慌ててベッドから起き上がり、そのままベッドから飛び出そうとした。ジンはラベンダーの肩を両手で押さえると、黙って首を横に振った。


「じゃ、じゃあ……メリーベルは」


「……」


「そんな」


「おまえが嵐の中に飛び出して行ったすぐ後だよ。ロジャーさんから電話が来た」


「……」


 ショックのあまりに、ラベンダーは声を出すことも出来ずに顔を手で覆ったまま肩を震わせていた。その姿を見てジンは黙ってうつむいた。ラベンダーは暫くの間、顔を覆って声を抑えて泣いていた。そうしないと、自分の泣き声に飲み込まれて壊れてしまいそうで、怖くて声を出して泣くことが出来なかったのだ。


 ジンは、ラベンダーの姿を見て音を立てないようにして、そっと部屋から出て行こうとした。その気配を感じたラベンダーは、慌ててジンに声をかけた。


「ジン?……どこに行くの?」


「俺が……、俺がそばにいると泣けないみたいだから。部屋の外にいるから。そうすれば、俺に遠慮しないで泣けるだろ?」


「別に……」


「ん?」


「ジンに遠慮してたわけじゃ……。ここに……、ココに居てくれる?」


「いいの?」


「1人で泣くなって言ったの、ジンじゃない?」


「そうだけど」


「怖かったの……」


「え?」


「声を出して泣いたら、押さえが利かなくなって、そのまま自分の泣き声に飲み込まれちゃうような気がして」


「大丈夫。飲み込まれたら俺が連れ戻してやる」


「うん」


 ジンの言葉に、ラベンダーは少し落ち着きを取り戻したように、大きく一回息を吐いた。



「アンソニーがね」ジンはラベンダーの横顔を見ながら口を開いた。


「え?」


「おまえの代わりに、アンソニーがメリーベルのところに駆けつけてくれたそうだ」


「アンソニーが?」


「うん。メリーベルは、1人じゃなかったって。家族と病院の先生。アンソニーと病棟で友達になった人たちや大勢の人たちに見送られて行ったってさ」


「そうなんだ」


「最後にはとっても安らかな顔をしてて、すこし笑っているようにも見えたって」


「そう……よかった」俯いて頷くラベンダーの頬に、また涙が一筋零れ落ちる。ジンは思わずラベンダーの肩を抱き寄せた。ジンにそっと肩を抱き寄せられたラベンダーは、そのまま彼の胸に顔をうずめて大きな声を出して泣いた。ジンは、ラベンダーの泣き声が小さくなるまでずっとそのまま彼女の体を抱きしめていた。暫くして、ラベンダーが落ち着いたのを見計らって、ジンは口を開いた。


「あのさ、いつかさ……、メリーベルに会いに行こう」


「え?」ラベンダーは驚いて顔を上げた。


「メリーベルね、今、キレイな花がたくさん咲いている丘の上にいるんだって」


 窓の外を眺めるのが大好きだったメリーベルのことを思って、家族はメリーベルのお墓を街を一望できる小高い丘の上にしたのだ。


「うん。行きたい!きっとジンが行ったらメリーベル喜ぶよ!」


「え?俺?」


「うん。だって……。メリーベルがジンのこと『カッコいい』って言ってたもん」


「ええ?なにそれ」


「ほら、前に写真送ったじゃない?あれを見て、ジンがかっこいいってさ」


「え?なんかずっげー恥ずかしいんですけど……」


「あはは、照れてる、照れてる!」


「でも、ラヴァンにはバロンと間違えられてるのにな?」


「あ、それはあの……まさかジンがココにいてくれたと思わなかったから」ラベンダーはばつが悪そうに下を向く。


「でもさ」


「ん?」


「それじゃなおさら、会いに行かなきゃなメリーベルに」


「うん。そうだね」


 ラベンダーは、まつげに涙の粒を光らせたままにっこりと笑った。



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