11. お告げのほこら 5
11. お告げのほこら 5
「多分、エルドラの仕業じゃろう」
「やっぱり、俺を……探しているんでしょうか?」
「それもあるかもしれないが、ヤツの目的は2つだろう。一つは、外界で自分を探しだそうとしている魔法使い達の動向を探るために。もう一つは、自分が入る器を探すため。おぬしをということだけではなく、人間界にはラヴァン達と同じように魔法使いの末裔が居る。中には、魔力を受け継いだものも居るかもしれない。自分がまともに動けないので、こんな小細工をして見つけ出そうとしているんじゃろう」
「俺、そんなことも知らなかったから、魔法を……」
「ああ。ま、ルナに感謝するんだな」
「え?」
「おぬしの魔波動は、ルナの結界のおかげでエルドラには届いておらん。今後は注意するに越したことはないぞ」
「はい」
「それにしても、こんな小細工を仕掛けなきゃいけないとはな」いきなりガハハとオンジは高笑いをした。
「なにがそんなに可笑しいんですか?」
「いや、やつは自分が動けないので、相当イライラしていることだろうよ。だが、わしも黙ってみておるつもりはないからのぉ。ヤツの小細工くらい、わしが吹き飛ばしてやるわい」
オンジはそういうと、自分の脇に置いてあった杖に手を伸ばした。そして、その杖を両手で持ち上げ静かに目を閉じた。オンジの杖が、ほのかに光を放ち始めると、オンジはその杖を右手だけで持ち替えてから、勢い良く床に突き刺すように振り下ろした。オンジの杖が床に着くと同時に、その杖の先から光が、波紋のように輪を描いて広がっていく。その波紋からはオーラが焔のように舞踊り、徐々にその輪は大きくなっていく。やがて、その波紋が洞いっぱいに広がった途端、それは、世界中を多い尽くしそうな勢いで、まばゆい光を放ちながら一気に広がった。
その光の余りのまぶしさに、ジンは思わず顔の前に腕をかざした。波紋の放つ光が消えてから、ジンは驚きの隠せないままオンジにたずねた。
「今のはいったい……?」
「エルドラの魔法の邪気を消してやったのよ。ヤツは今頃、地団駄踏んで悔しがってることじゃろう!わっはっはっ!」オンジは心の底から楽しそうに高笑いした。
「それじゃあ……」
「ああ、あの忌まわしい雨も明日には止むじゃろ。オンボロのポンコツでも、それなりに役に立つもんだよな~、ジン?」オンジはそういって、悪戯っぽく笑ってみせる。
「あ……、あれもご存知だったんですね?」ジンはバツが悪そうに下を向く。
「ラヴァンもこの雨にやられたのじゃろ」オンジは、ラベンダーの方を見ながらそういった。
「え?ラヴァンも?」
「おぬしも知っとるだろ?ラヴァンは人間には珍しく、かなり強い精霊力をもっておることを」
「ええ」
「あの寒さと雨の影響でラヴァンはかなり衰弱してしまったんだろう」
「……」ジンは心配そうにラベンダーの顔を覗き込み、額にそっと手を当てた。
「ラヴァンを好いておるのじゃな」
「……」
「なんだ?違うのか?」
「よく……、良くわからないんです」
「わからないとは?」
「俺今まで、誰かのことを大事だとか好きだとかと思ったことがあまりなくて。だから……。ラヴァンのことはすごく好きです。素直だし、優しいし。でもフローラのこともとても大事に思っています。だから、この気持ちが、二人のことを家族のように思っているからなのか?もっと別な何かなのか。それがまだよくわからなくて」
「そうか。ま、それほど焦って答えをだすようなことでもないじゃろ?」
「え?」
「近いうちに、おぬしは里に帰るんじゃろ?」
「ええ。エルドラがこんなことを仕掛けてくるのであれば、外界に長くは居られないと思います」
「だとしたら、今の気持ちの答えが見つかってしまうことが、おぬしのためにもラヴァンのためにもいいことだとは思えない」
「……」
「じゃが、例え短い間だったとしても、大切だと思える人たちと過ごすことが出来ることは幸せなことだ」
「ええ」
「だとしたら、今はその時間を大事に過ごすことじゃ」
「はい」
「さてと、そろそろ夜が明けそうだ。ラヴァンを連れて帰りなさい。まだ直ぐには回復しないかもしれないが、わしが邪気を消して置いたからそう心配することもないじゃろう」
オンジがそう告げると、ジンとラベンダーの周りの光が徐々に消え、二人はもとの崖のくぼみの中に居た。ジンがラベンダーを背負って山道を下り始めた頃には、雨はすっかり上がり空には星が瞬いていた。