11. お告げのほこら 4
11. お告げのほこら 4
暫くしてジンは、自分のまわりがぼぉっと明るくなるのを感じて振り返った。灯りを背に老人が一人立っていた。
「お若いの、こんなところで雨宿りとは尋常じゃないね」
「その声は、……オンジ!」
声の主はお告げのほこらのオンジと里で呼ばれている人で、ルードの里では有名な魔法使いだった。彼は、里の「お告げのほこら」と呼ばれる洞窟に住んでいた。しかし、彼の姿は夢のなかでお告げを受ける時にだけ目にすることが出来るといわれていた。ジンもかなり小さい頃のことだが、一度だけ夢の中で彼からお告げを受けたことがあった。
「こんなところで立ち話もなんだから、こちらへ入りなさい」
ジンはオンジに促され、ラベンダーを抱えたまま光の中に足を踏み入れた。中に入ると、焚き火のように明るく温かく灯る光の玉があり、オンジは顎をしゃくってその光の玉の近くを指した。
「驚きました。まさか外界であなたにお目にかかれるとは」ジンは、ラベンダーを灯りの直ぐ近くにそっと横たえると、その隣に座りながらそういった。
「外界の扉を開いたのは2回目じゃよ」
「2回目?」
「そうさの、あれはもう随分前のことだったが……。あんまり外界の精霊たちが騒いでいるので扉を開けたら、小さな女の子がしゃがみこんでおった」
「女の子?」
「ラベンダーだったよ」
「え?ラヴァンが?」
「懐に、小さな青い小鳥を抱えていた。鷹に襲われているのを見つけて彼女が助けたらしい。怪我をしていたので治療したのだがそのまま目を覚まさない。死んでしまったのではないかと、ポロポロと泣きながら途方にくれておった。わしが、『寝てるだけだから起こしてごらん』というと、そっとゆすり起こしてから空に放していたよ」
「ラベンダーをご存知だったんですね」
「なんだジン、おぬし覚えとらんのか?」
「へ?」いいやなんでもないと言って、オンジは含みのある笑いをジンに向けた。
「うう……」隣にいるラベンダーが小さくうめき声を上げる。
「ラヴァン?ラヴァン?」
慌ててジンはラベンダーに向き直ると、呼びかけたがラベンダーはそのまま答えることはなく、眉間に小さな皺を寄せたまま眠っているようだった。
「今は起こさないほうがいいのではないか?魔法使いのジン」
「はっ……」
オンジの声でジンは我に返った。今ここでラベンダーが目を覚ましたら、自分が魔法使いであることが彼女に露見しまうことを意味していたからだ。
「おぬし、ルナに魔法を使わないように釘を刺されていたんじゃなかったか?」
「え……、あ、はぁ……」
ルナの言葉を忘れたわけではなかったが、ラベンダーを助けたい一心での行動に、ジンに後悔はなかった。
「ま、あの場合は仕方なかったかもしれんな」ジンは黙って頷いた。
「それにしても、この状況でよく魔法が使えたものだ。さすが、ルードの里の若手一番の魔法使いといわれるだけのことはあるな」
「この状況?」
「ああ、この天気じゃ。おかしいとは思わないか?」
「おかしい?」
「この雨には、邪悪な魔法がかかっとる」
「邪悪な魔法?」
「そうか、やはり気がついては居なかったか」
「はぁ」
「この雨には、魔法を……、精霊力を極度に弱める魔法がかけられている」
「精霊力を?」
「魔法を使うためには精霊力が必要なことは知って居るな。しかし、精霊力が弱くても魔力が強ければ魔法を発動することができる」
「はい」
「つまり、この雨に当たっても魔法を使うことの出来る魔法使いを探しているやからが居るということじゃ」
「それじゃあ、この雨は……」