11. お告げのほこら 2
11. お告げのほこら 2
「なぁテレビ。お前だってさ~、ラヴァンみたいにポンポン『ポンコツ』『ポンコツ』なんていうやつのためにちゃんと映そうなんて思わないよな?俺はお前の苦労が良くわかる!」
「何言ってるんだか?馬鹿みたい」ラベンダーは呆れ顔でその様子を見ている。
ジンはテレビの両肩に労わるようにそっと手を置いてまだ話しかけている。
「お前だってさ、まだちゃんと働けるんだよな?ちょっと疲れてただけで……な?そうだろ!」
そう言って、ジンが軽く右手でテレビをポンッと叩くとテレビはいきなりきれいな画像を映し出した。
「ええっ~~。なにこれ!嘘でしょ?」慌ててテレビの前にひざまずいて画面を覗き込むラベンダー。
「嘘ってなんだよ失礼だな。ちゃんと映ってるだろ?もう機嫌を損ねるようなこと言うなよ!」
得意顔で言うジンを振り返ったラベンダーは、なにかを思い出したようにあっと声を上げて立ち上がった。
「ん?なに?どうした?」
「今朝ね、洗濯機の調子が悪かったから、私、説教してくる!」 声をかけるジンをそこに置いたまま、ラベンダーは洗面所に入っていこうとする。
「はぁ?おい、ちょっと待て。落ち着け!」
「なんで?だって、説教したら洗濯機だってちゃんと調子よく動くかもしれないじゃない?」
「あ……、それは俺が後でやっとくから。お前はテレビ見てろ!ほら、天気予報みるんだろ?」
実はジンは、こっそり魔法を使ってテレビを直したのだ。それがばれてはまずいので、慌ててラベンダーをテレビの前に引き戻した。
「あ、そっか。そだね。直してくれてありがとね、ジン。じゃ、洗濯機もよろしく!」
「え~……、あ、はいはい」仕方なくジンは洗面所に向かった。
「はぁ~~~~。なんでこうなるかな?俺、修理屋じゃないんだけど……」自分が蒔いた種とはいえ、洗濯機の前で大きなため息をつくジン。
「ごめんなさいね」うしろからフローラの声がする。
「あっ、いえ……」
「魔法……使わせちゃったみたいね」
「あ、わかってたんですか?すいません、余計なことしちゃったみたいで」
「いいえ、こちらこそ。できるだけ早いうちに新しいものに換えるから……。って言っても、春になってからになっちゃうと思うけど」
「あ、多分ですけど。俺、少なくとも春まではいると思いますから」
「え?別にそういう意味ではないんだけど」
そのとき店の電話が鳴った。
「フローラ~?」ラベンダーがフローラを呼ぶ声がする。電話はロジャーからだった。
「お電話かわりました。え?あ、そうなの……。ええ。はい。ありがとう、それじゃあまた」
フローラはどこか曇った表情で短く返事をすると直ぐに電話を終えた。
「ロジャーさんなんの用だったの?」ラベンダーは、テレビの画面に目をやったまま尋ねる。
「え?ううん。今度の注文の確認よ」
「ふ~ん」
「あ、ジンの様子見てくるわね」そういうと、フローラはまた洗面所のジンのところにやってきた。
「ジン?」
「あ、こっちは終わりましたよ」
「ああ、ありがとう。あのね……」
「あれ?なんか顔色わるいけど?」
「メリーベルが……」
「え?」
「あまり容態が良くないみたいなの」
「えっ!」大きな声を上げそうになって、ジンは慌てて口元を押さえた。フローラも扉の向こうのリビングにいるラベンダーの様子を窺うようにしながら小声で話し始めた。
「今、ロジャーから電話があったの。二三日中が山かもしれないって……」
「確かにあまり良くはなさそうだったけど、そんなに」
「前にもこんなことがあったから、無事に峠を越してくれるといいんだけど……。でも、ラヴァンにはこのことは」
「ええ、俺もそう思います」
「巻き込んでしまうようで悪いけど、よろしく頼みます」
「いいえ。なにも出来ませんけど」
ジンがリビングに戻ると、そんな会話が交わされたことも知らずに、ラベンダーは講義に集中していた。思わずジンはラベンダーの横顔を見つめてしまう。
「ん?なに?」ジンの方を見てラベンダーが首を傾げた。
「ん、あ。洗濯機に説教してきたから」
「あ、それはご苦労様でした」ラベンダーはニコッと微笑むと、また画面に視線を戻してノートにペンを走らせた。それほど遠くないうちに、この少女を襲うかもしれない絶望の時を考えると、ジンはその時に彼女をどうやって支えてやればいいのか想像が出来なかった。それどころか、自分に彼女にために出来ることなど何も無いようにさえ思えてくる。
里に居た頃、力さえ手に入れればどんなものでも手に入れることが出来、不可能な事など何もないと思っていた。しかし、いくら偉大な魔法使いであっても死の淵をさまよう命を、この世に呼び戻すことは出来ない。今の自分は、目の前に居る少女のことを悲しみから護ってやることも何も出来ないのだ。そう思うと、改めて自分の無力さを感じていた。