11. お告げのほこら 1
11. お告げのほこら 1
その日ジンは、ベッドサイドの灯りだけが灯る暗い部屋で目を覚ました。
(あれ?まだ夜が明けてないのかな?……)
まだ寝ぼけた頭でそんな風に考えてから、ふと枕もとの時計を見て一気に目が覚めた。
「げっ、やばっ!」
いつも起きている時間はとっくに過ぎていたのだ。
「なんでこんなに暗いんだ……。あ、そういえば昨日……」
もうそろそろ雪が降りそうだからと、ラベンダーと一緒に温室のガラスや家中の窓の上から、鎧戸のようなものを閉めたことをすっかり忘れていたのだ。明日の朝部屋が暗いから寝過ごしたりして、とラベンダーにからかわれたことを思い出し、慌てて下に降りて行った。
「おはよう。ジンの分のご飯も今用意するわね」いつものようにフローラに笑顔で言われて、ジンは恥ずかしそうに鼻の頭をかいた。
「あははー、やっぱり寝過ごしたー」
食事を終えたラベンダーは、テレビの前で何かをしながら、チラッとジンを見ながらからかうようにして言った。
「悪かったな、やっぱりで」
ジンはそう言い返すものの口調ほどは怒っていない。それよりも、ラベンダーの様子の方が気にかかった。
「さっきから、なにやってんのお前」
「うん?あのさ、テレビの映りが悪いのよ……。どうしてもさ、雪が降る時期になると悪くなるんだけど……今日はサイアク。もう、ポンコツなんだから、嫌になっちゃう!」そうブツブツ言いながらテレビの前で腕を組んでため息をついた。
「なに?見たいものでもあんの?」
「う~ん。とりあえずは天気予報かな~?なんか嵐が来そうだからさ~。後は、テレビ講義」
「講義?今みるの?」
「うん。せっかく冬がかきいれどきだって言うのに……」
「ん?」
「ほら、秋までは昼間も忙しいじゃない?でも、冬は家に閉じ込められるからさ~、だから冬のうちに授業を進めちゃうのよ!」
「それで……」ジンは、パクパクと朝食を頬張りながらも器用にラベンダーと会話をしている。
「ん~。天気予報だけでもいいから映らないかな~」
「そんなに天気悪いの?」
「うん。今は霙が降ってるからね~」
「ミ・ゾ・レ?なにそれ?」
いつの間にか朝食を終えたジンは、キッチンに食器を片付けてラベンダーの隣に立っていた。
「え、知らないの?みぞれってね、雪と雨が混ざったやつ」
「え!雪?雪が降ってんの?!」
「あ、ジン!待って!雪って言ってもみぞれは殆ど雨みたいな・・・」とラベンダーが声をかける暇もなく、ジンはさっと表に飛び出していく。
「ひゃ~~。さびぃ~!痛てぇ~!」悲鳴に近い声とともに、ジンは慌ててドアから部屋の中に飛び込んできた。 実物の雪を見たことのないジンは、白銀の世界を想像して表に飛び出したのだが、表は薄暗くものすごい嵐が吹き荒れ、べチャッとした冷たい固まりが飛んできた。それは、ジンが想像していた、白くて冷たくて柔らかい雪とはまるで違い、石のつぶてがぶつかったときの様な痛みを頬に感じただけで悲鳴を上げて逃げ帰ってきたのだった。
「だから、待ってって言ったのに……」プッと噴出すラベンダー。
「だって、雪が降ってるって……」
「雪と雨が混ざったやつなの、みぞれって。しかも、かなり冷たくて硬い雨って感じだったでしょ?」
「うん。びっくりした……」
「例年ならね、もう雪が積もっててもおかしくない時期なんだけど、なんか今年は遅いのよ」キッチンで片づけを終えたフローラがそういった。
「そうなんですか、なんかつまんねえの」
「もう、雪、雪って子供じゃないんだから……」ラベンダーは笑いを堪えながら言った。
「しょうがないだろ?見たことないんだもん、見て見たいジャン?」
「そのうち、雪なんかもう見たくない!って思うほど見ることになるから、大丈夫」
「そんなに降るの?」
「まあね……。って、もう!テレビ映んないし!ポンコツなんだから……」
「まだダメなの?」ジンもテレビを覗き込む。
「フローラ。もうそろそろこのボロテレビ買い換えないとだめかもね?」
「そんなに古いの?このテレビ」
「私が産まれるずいぶん前からあるらしい……」
「あらら、物持ちのいい事で……。よし、俺が直してやろう!」
「はぁ?ジン、テレビなんか直せるの?」
「やってみなきゃわかんないだろ?それにさ、いくら機械だって、そう『ポンコツ』だの『ボロ』だの言われたら機嫌も悪くなるよ」
「は?なにそれ?」
「ま、見てろって」
ジンはそう言ってラベンダーに軽くウインクしてみせると、おもむろにテレビに向き直って話しかけ始めた。