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ラベンダーの空  作者: 凌月 葉
10. 親友
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10. 親友 4

10. 親友 4


 翌日、ジンが誰かにぼこぼこにされたという噂が学院内に広まっていた。ジンのあざだらけの顔が何よりも証拠だったが、誰が何を聞いてもジンは「一人で転んだ」と言い張るばかりだった。数日後、またジンは待ち伏せを食らった。今度は、魔法実技の上級生だけではなく、他の授業の生徒もまで含めて数人いた。みな、ジンが上のクラスに飛び級をしてきたことをこころよく思っていない連中だった。


「よう、ジン。お前殴られても手が出せないんだってな?」


ボス格と思われる一人が、ジンの前に立ちはだかって話しかけてくる。


「は?邪魔だ、どけよ!」無視をして横を通り抜けようとするジン。


「なんだよ、上級生に向かってその口の利き方は!」今度は、他の上級生が立ちはだかってきた。


「上級生だぁ?はぁ?同じレベルの授業を受けてるのは、同級生つーんじゃないのかよ?」


イライラしながらジンは言い返す。


「なんだと?お前はずるをしてるくせに」


「俺はずるなんかしてねえ」


「は?白状しろよ。ずるしてえこひいきしてもらってますって。だから手を出さないんだろうが!」


「悔しかったらやり返してみろよ!」気がつくと、ジンは上級生にすっかり取り囲まれていた。


「お前ら相手に、まともにケンカなんかしたくないだけだ!」


「なんだと。前から思ってたけど、いちいち生意気なんだよお前は!」


「こんなやつやっちまえ!」わっと一斉にジンに飛び掛ろうとする上級生。

 すると突然、グラグラッと、地震のように大きく地面が揺れ上級生たちはバランスを崩す。そこに、竜巻のような突風が吹き込んできた。


「お前たち……、何しに来たんだよ!」


突風が止むと、ジンの両隣にはタカヤとアッシュの姿があった。今の地震は、地属性を持つタカヤが、そして突風は風属性を持つアッシュが起こした物だったのだ。


「何しにって、お前と遊びにきたんだよ」ニヤッと笑いながらタカヤが言う。


「え?」


「最近さ、思いっ切り魔法使うと「ダメ」って言われることが多くてさ。さっきの突風、あれ僕の新しい術。一度、試してみたかったんだよね!」大きな目をクシャッとゆがませてアッシュが笑った。


「なんだお前たち!」突風に一瞬ひるんだ上級生が二人を睨みつけながら怒鳴った。


「俺たちジンと遊びに来ただけですから。なんなら、上級生のクラスメートさんたちも一緒に遊びますか?」挑発するような口調でタカヤが言う。


「遊びたいなら、混ぜてあげてもいいですよ!ね?タカヤ、ジン」アッシュも言葉を続けた。


「いいか、お前は手を出すけど、出してないんだぞ」タカヤがそうジンの耳元で囁いた。


「はぁ?」


「つまり、ジンも手を出してもいいけど、やったのは僕たちってこと」アッシュがジンの顔を覗き込みながら悪戯っぽく笑った。


「もう、どうなっても知らねーぞ」呆れたような笑いをこぼしながらジンが言う。


「あんたさっき。ジンがずるをしたって言ってたけど。こうやって大人数で待ち伏せするのは、ずるっいわねーのかよ?」


タカヤはボス格の上級生に向かって怒鳴った。


「なんだと!ごちゃごちゃ言ってんじゃねーよ!」


上級生の一人が怒鳴るのと同時に、皆が一斉に3人に襲い掛かってきた。




ハァ、ハァ、ハァと肩で息をしながら、ジンとタカヤとアッシュの3人は寝転んで空を見上げていた。かなりの人数の上級生とやりあうのはさすがの3人でも至難の業ではあったが、どうにか勝利を収めた後にタカヤがボス格の上級生に馬乗りになり、今後一切ジンにも飛び級をしてきた下級生にも手を出さないと約束をさせた。


「タカヤ、カッコ良かったよ~!」アッシュは泥だらけの顔で笑いながら言う。


「なんだよ、からかってんのか?お前」タカヤはアッシュのわき腹を肘でつつきながら言った。


「痛い!」

突付いたところがちょうどアッシュの怪我の上だったらしく、アッシュは悲鳴のような声を上げた。


「お、悪い」慌てて謝るタカヤ。しかしジンはずっと空を見上げたままで、一言もしゃべろうとはしなかった。


「おい、ジン。お前は大丈夫か?」


「ん?」


「ジンは、怪我しなかった?」


自分も怪我をしているくせに、アッシュもジンの方に心配そうに顔を向ける。


「お前ら馬鹿だよ……」


「はぁ?なんだよそれ」タカヤはガバッと体を起こしてジンの胸倉につかみ掛かって固まった。


「お前ら……ほんと馬鹿だよ……」ジンは目尻から溢れる涙を拭こうともせずに、タカヤの顔を見つめていた。


「ばぁ~か。今頃気がついたのか!」タカヤはふいっとジンのことを放すと、そのまま寝転んでそう言った。


「風が気持ちいいね~」アッシュが呟くように言う。


「ああ、ほんとだな~」タカヤもじっと目を閉じて言った。


「さっきの術……、二人とも凄かったよ」ジンは空を眺めたまま言った。


「だろ、俺の渾身の術だからな!」タカヤはフンと鼻を鳴らす。


「ジンに褒められるとなんか嬉しいな」アッシュはククッと嬉しそうに笑った。



(そっか、俺にもこんな友達がいたんだっけ……)


夢を見ながらジンはそう思っていた。あれから、ジンはどんどんと飛び級を重ね、実力も認められて待ち伏せをされるようなことも無くなった。そして、二人と同じ授業になることも無くなりそのまま疎遠になってしまった。


(あいつら元気にしてるかな?)


 二人に会ったのはいつが最後だったろうか?いつの間にか自分は、外界に出ることばかりを考えるようになって二人がいてくれたことも忘れてしまっていたのだ。


(ラヴァン。俺にも、俺にもいたよ。俺のことを自分の事よりも大事に思ってくれてた友達が。親友が……。お前が思い出させてくれたんだ、ラヴァン……ありがと)


夢の中でジンは温かい気持ちに包まれながら、ラベンダーにお礼を言った。


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