9. 白く輝く花 4
9. 白く輝く花 4
(預言書。これは、ルードの里の伝説の預言書じゃないか!なんでこれがこんなところに……)
預言書の実物を見るのは、ジンも初めてだった。伝説の預言書と呼ばれるその本は、里に古くから伝わる、魔法の秘伝書の元になったと言われている書物だ。
「お前……こ、こんな本どこで手に入れた……」
「え?フローラの調合室の本棚……、あれ?どうしたの?」
本の背表紙を凝視するジンの顔を覗き込むようにしてラベンダーが尋ねた。
「フローラの……?」
「そう……っていうか、この本を持ち出したことはフローラには絶対内緒にして。お願い!!」ラベンダーは、いきなり胸の前で手を合わせて必死に頭を下げる。
「なんで?」
「フローラに、調合室にある古い本はあの部屋から持ち出したらいけないって言われてるの」
「え?」
「ほら古い本ってさ、湿気とかに弱いでしょ?だから、カビがはえたりして傷むんだってさ。すでにもう、紙もぼろぼろであっちこっちページが落ちたり……わぁっ」ラベンダーが軽く預言書のページをめくって見せると、その中の数ページがズリッとずれ落ちそうになる。
「って……ほらね」ラベンダーは、慌ててそのページを元に戻す。
「私の部屋ってさ、増築したときに作ったから、外壁が石造りじゃなくて木じゃない?だから、なんか部屋の湿気がちがうとか?なんとか?なんだって……」
(そういえば前にフローラが、石造りの部分は魔法や波動を通しづらい造りになっているって言ってたっけ?それでか……)
「じゃあ、調合室でやればいいだろ?」
「だめなの!」
「なんで?」
「だって……」
「だって?」
「この本を手にしたら、フローラにすごく怒られたの」
「え?」
「それも、ものすごい剣幕で!」
目なんてこんなになっちゃって!と指で目を吊り上げて見せ、フローラが怒った時の顔真似をしながらラベンダーは話す。
「ええ!あのフローラが?そんなに怒ったの?」
「うん。信じられないでしょ?」
「それじゃあなおさらだ。だめだ、早くこの本返して来い!」
「やだ」
「ラヴァン!」
「もう分かった、いいよ、ジンになんか頼らないから!ほら、もう邪魔だから出てってよ!」ラベンダーはジンの背中を押して部屋から出そうとした。
「おい、ちょっと待てってば!」
「だって、ジンはフローラの味方なんでしょ?」
「敵とか味方とか、そういう問題じゃないだろ!」
「だって……」
「てか、どっちの味方につくとか、俺にそういうこと聞くわけ?」
「ごめん……」
ばつが悪そうに俯くラベンダーの姿を見て、ジンはふうと大きなため息をつき、暫く考えてから口を開いた。
「分かった。協力する」
「ほんと!」
「メリーベルのためなんだろ?」
「うん。じゃあ、フローラにも黙っててくれる?」
「そこがかなり、俺としては引っかかるところなんだけど……」
「え?裏切るの?」
「だ・か・ら。そういう言い方しないの!」
「はい。ごめんなさい」
「でも、こんな無駄なことしてお前に徹夜ばかりされても困るから……」
「徹夜してたの知ってたんだ……」
「当たり前だろ、部屋隣なんだぞ?それにもう一週間じゃん?いい加減体壊すぞ!」
「すいません。でも無駄なことは酷いんじゃない?」
「無駄でしょ?ほら、ここスペル違ってるから、意味を間違えてるし」
「へ?どこ?」
「ここ。こんなことばかり、一人で徹夜してやってても無駄でしょ?」
「たしかに」
「だから、俺も手伝ってやる。その代わり、夜はちゃんと寝ること」
「分かりました」
「明日から一緒にやろう。だから今日はもう寝るんだぞ、いいか?」
「はい。よろしくお願いします」
「じゃあな」
「うん。じゃあ明日ね。おやすみ」ラベンダーは嬉しそうにそういうとドアを閉めた。
「なんか俺、最近、密かにラヴァンに甘いような……」
ジンは、部屋に戻ってベッドに寝転んでそういってため息をついた。