1. ステージアップ試験 4
1. ステージアップ試験 4
大きな分厚い木の扉を押し開けて、ジン達は試験会場に入った。湿気を帯びたかび臭いよどんだ空気が鼻を突く。
「思ったより暗いわね。とりあえず、灯りをつけましょう」そういうと、 テレスは片手を上げて呪文を唱えて、指先に小さな光の玉を作り空中に浮かべた。すると、ジンが振り向きざまに手を振り払ってその灯を消した。
「馬鹿、暗視を使えよ。敵地偵察の基本だろう!」 といらだった声で言った。
暗視というのは、視力を上げて暗闇でも見えるようにする魔法の一つだ。しかし、暗視は中等学院以上のレベルにならないと使えない魔法だった。 同行している下級生にはどう見ても初等学院生である。それを思ってテレスは「でも・・・。」と言いかけたが、ジンはその言葉をさえぎって、-おまえが、チビと手を繋いで離さなければ問題は無いだろう?-と、テレスに下級生と手を繋ぐように耳元で言った。
テレスは下級生の前にひざまずいて、その子の手をとりながら「お名前と学年を教えてくれる?」と優しい口調で尋ねる。
下級生は、ジンの態度にすっかりおびえてしまったらしく、小さく震える声で、「ルシア。初等学院3年」と答えた。
「はぁ?初等学院3年?冗談じゃない」ルシアの答えを聞いてジンはまた大きな声を出した。
「ルシアがココにいるは、この子のせいじゃないんだから、そんな言い方しなくても」
テレスは、ジンに向ってそういったが、ジンはその言葉には耳を貸さず、
「こんな小さなやつを連れて試験をさせるなんて。 まったく、年寄りの考えることにはつき合えねえな」 と吐いて捨てるように言っただけだった。
「あっちに通路が続いてるね」
マルクが闇の中で目を凝らしながらのんびりと言う。
「どっちにしても、試験はクリアしなきゃならないんだから、行くぞ」
ジンは先頭に立って、通路をどんどん奥へ向って進んでいく。ようやく馬車が通れる位の幅の通路は、入り口の部屋と同じように、床も壁も全て石のブロックで覆われているようだった。トンネルのようにアーチ型の天井からは水が垂れて来るらしく、床は濡れ、通路には時々水滴が落ちる
音が響いていた。
「ジン、もうちょっとユックリ歩いてくれない?」 テレスがジンの背中に向って声を掛けた。
「ココは滑るし、もう少しユックリ歩いてくれないと、ルシアがついて行かれないわ」
しかしジンはテレスの言葉には反応せずに、やや早足のままずんずんと進んでいく。
「ねえ、ジン。聞こえてるの?」 テレスの言葉が終わらないうちに、ルシアがあっと声を上げた。
濡れた床に足を取られ、滑って転んでしまったのだ。
「ルシア大丈夫?」慌ててテレスがルシアを抱き起こす。
「何やってるんだテレス!チビと手をつないでたんじゃないのか?」
「だから、もう少しユックリ歩いてって……」
テレスは、ルシアを抱き起こすとジンに文句を言った。
「だから¨」ジンが振り向いた時、ゴォッという音がした。
「なに、この音?」 テレスが心配そう天井を見上げる。
ジンは音がする方向を確かめるように周りを見回していた。ふと床の一部が凹んでいることに気がつく。どうやらそれはルシアが転んだ場所のようだった。
「これか…」と、ジンがしゃがみこんで床を調べようとすると、いきなり入り口の方からガラガラと通路が崩れはじめた。
「ヤバイ崩れるぞ、飛べ!」ジンが叫んだ。