8. アンソニーの幻 7
8. アンソニーの幻 7
「小さい頃からね……」暫くしてから、またラベンダーが口を開いた。
「ん?」
「小さい頃から、良く見る夢があったの」
「夢?」
「うん。どこか暗いところで、私は一人で泣いているんだ……」
「うん……」
「でね、暫くすると誰かが扉を開けて迎えに来てくれるの。それで、私の事を抱き上げてくれて、『ラヴァン、迎えに来たよ。もう一人にしないから泣かないで、ずっとそばにいるから』って言ってくれるの。顔が影になってて、誰だかわらかないんだけどね……」
「うん……」
「パパなのかな?って思ってた。でも、パパは私が赤ちゃんの頃に死んじゃってるから、勝手にあれはアンソニーなんだって思ってたの。だからきっと、アンソニーはずっとそばに居てくれるって勝手に思ってたんだよね」
「そうなんだ」
「おかしいよね?」
「え?なにが?」
「フローラが、ずっとそばにいてくれてさ、いつも優しくて大事にしてくれててさ……。私子供の頃から、一度だって寂しいって思ったことなんか無かったのに……」
「……」
「なのに、なんであんな夢を見るんだろうって。私はわがままなんだなーって」
「わがままなんて、そんなことないよ」
「そうかな?」
「そうだよ。フローラは優しいし、きっとずっとそばにいてくれるって思う。でもさ、やっぱりフローラはラヴァンのおばあちゃんなわけだし……その……ここにいたら、いつかはラヴァンは一人になっちゃうかもしれないんだしさ……」
「え……、あ、うん」
「だから、ずっと一緒にいるって言ってくれる人の夢を見ることは、別にわがままでもなんでもないんじゃない?」
「そうかな?」
「うん。それに……」
「それに?」
「俺もさ、ガキの頃から良くみる夢があるんだ」
「え?」
「夢の中で、誰かが『心配しないで大丈夫、安心して』って言うんだよ」
「うん」
「でさ、その声がすごく優しくて、そこがすごく温かくてさ、俺、寝ちゃうのそこで」
「え?夢の中なのに?」
「そ、変だろ?」
「えっ、でも夢だもんね?」フフフっとラベンダーは小さく笑う。ジンはその笑顔に頷くと、話を続けた。
「うん。でね、その後起こされるんだよ、ゆさゆさってゆすられて。で、目を覚ますと『さあ、お行き』って声がしてさ、見上げると真っ青な空が広がってて、そこに俺は飛び込んでいくの」
「ふ~ん。不思議な夢だね」
「うん。でも、今まで何度も見るんだよ」
「ふーん。私の夢と同じだね」
「ん?」
「同じ夢を何度も見るの」
「あ、そうだな」
「誰でもそういう夢ってあるのかもね」
「あー、そうだな~」そう言ってジンが少し伸びをすると、お腹がグウっと大きな音を立てて鳴る。
「あ~、ごめんお腹空いたよね……。そろそろ降りようか」
「ん、そうだな。フローラも待ってる」
「うん」
「あのさ、ラヴァン」
「うん?」
「一人で。……一人で泣くなよ」
「え?」
「フローラがすごく心配してた……。だから、泣きたいとき、一人で泣くなよ」
「……、あ、うん」
「俺、お前にもフローラにも、泣いたり辛い顔したりして欲しくないんだよ」
「え?」
「なんか、上手くいえないんだけど……」
「うん、分かった。ありがと」
「そんじゃ、降りるか!」
そういうと二人は腰を上げた。二人の上には、満天の星空がキラキラと瞬いてどこまでも広がっていた。