8. アンソニーの幻 6
8. アンソニーの幻 6
「わぁ、すっげー」思わず大きな口を開けたままジンは星空に釘付けになった。
「空気が冷たいとね、光が良く通るから星がきれいに見えるんだってさ」
「へぇー」
「こんな星空見たことないでしょ?」
「え?」慌ててジンが聞き返す。
「ジンが住んでいたところって、もっと暖かいところだって言ってたから、星がこんなにきれいには見えないかな?ってちょっとそう思ったから」
「うんうん。俺が住んでたところも結構田舎だったんだけど、空はもっと曇った感じだったからね。初めてみたよ」
「へぇ~、都会で育ったんじゃなかったんだ」
「うん。まあね。ガキのころには良く木登りとかしたよ。こんなでっかい木があってさ……」手振り身振りを交えてジンが話を始めると、クククっとラベンダーが笑い出した。
「可笑しい?」
「ううん、そうじゃないけど。ジンが子供の頃の話するのって初めてだなって思って」
「ああ。俺もさ、さっきここに昇ってくるまで忘れてたよ」
「え?」
「ここに昇って下を見下ろしたらさ、そういえばガキの頃に木に登ったことがあったな~って」
「そっか、だから高いところも慣れていたんだね」
「かもね」
「ここまで昇ってきたの、ジンが初めてだよ。アンソニーもここまできてくれたことはないんだ」
「そうなんだ……」ラベンダーは俯いてコクっと頷く。
「あのね……」
「ん?」
「私知ってたんだ。アンソニーに彼女がいることも、もう直ぐ結婚することも」
「え?」
「アンソニーが、私の事を妹だとしか思っていないってことも……」
「ラヴァン……」
「へへへ、変だよね?隣に並ぶことなんてできないんだって知ってたのにね」
「……」
「結婚するって聞いたら、なんか急に遠い人になっちゃった気がしてさ……」
「うん」
「ずっとさ、ずっと一緒にいてくれるような気がしてたんだ」
ジンが何も言えずに俯くと、ラベンダーも自分の足元を見つめて黙ってしまった。
「変でしょ?私」
「え?そんなこと……」
「嘘。アンソニーのこと、あんなおじさんって思ってたくせに」
「あ……」ジンは、バツが悪そうに苦笑する。
「やっぱり……」
「でも、アンソニーっていいやつだよな。お前が好きになったのわかるきがする」
「え?」
「この前きたときさ」
「うん」
「俺に『ラベンダーは、ちょっと気が強いところがあって、意地っ張りで、平気で人のことを変態とかって呼ぶ時もあるけど、根は素直ないい子だから。よろしく頼むよ』って、俺に頼んできた」
「嘘……」
「は?」
「なんか、アンソニーが言ったことにジンが足したでしょ?」
「あは、ばれたか」
「やっぱり……。ジンは嘘つくの下手なんだから……」ラベンダーは、言いながらプッっと小さく笑った。
「でも、アンソニーが俺に「よろしく」って言ったのはほんと」
「うん」
「あいつはさ、あいつなりにお前のことが大事で心配なんだよ。そうじゃなかったら、あんなこと頼まないって」ジンはそういうと、ふうっと息を吐いてまた星空を見上げる。ラベンダーもつられるようにまた視線を空に向けた。