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ラベンダーの空  作者: 凌月 葉
7. 秘密
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7. 秘密 3

7. 秘密 3


 フローラの夫は植物学者をしていた。ここラベンダーハウスは、フローラの実家に代々受け継がれ夏の間の別荘として利用されていたらしいのだが、植物学者の夫と結婚してからは、温室などを増築し夏の間の研究室として利用していたらしい。 フローラの娘で、ラベンダーの母親に当たる人物も薬草師で植物学者だったらしい。彼女は大学で知り合った同じ植物学者の男性と結婚し、ラベンダーが生まれた。その頃には、フローラの夫はすでに他界していたので、フローラは娘夫婦と一緒に暮らしていた。 あるときラベンダー親子は、隣国で開かれた学会に出席するために飛行機に乗り、そこで飛行機事故にあったのだという。同じ飛行機には大人だけではなく、ラベンダーと同じような月齢の赤ん坊や子供たちも乗っていた。しかしなぜか、ラベンダーだけが生き残ったのだという。


 事故後、留守番のために一人で自宅に残っていたフローラがラベンダーを引き取って育てることになったのだが二人は平穏に暮らすことができなかった。なぜならラベンダーは、救助隊の目の前に光の玉覆われて空からふわふわと舞い降りてきたのだ。 大きな事故だったために、その様子は大勢の救助隊員に目撃されて写真まで撮られた。そして、事故の報道とともにその写真が紙面を飾ることになってしまった。そのために、連日のように自宅には記者や野次馬が殺到したのだという。 唯一生き残りしかも光の玉に包まれて空から降りてきた赤ん坊は、魔女なのではないかという噂が出回った。噂は噂を呼びそのうち飛行機事故の遺族も押しかけてきて、ラベンダーのせいで事故がおきたのだと騒ぎ始めるようになってしまったという。


 そんな状態で、当時の都会ではラベンダーを育てることができなくなったフローラは、夫の教え子でラベンダーの父親の先輩でもあったロジャーに相談し、人目のないラベンダーハウスでひっそりとラベンダーを育てるようになったらしい。しかし、ラベンダーにこの事実を告げることをためらったフローラは、両親のいないラベンダーを両親のそろった子が多い都会で暮らして寂しい思いをさせないために、ここに移り住んだのだと嘘をついてきたのだという。



「ラヴァンの名前は、マリア・ラベンダー・カイラ。でも、あの子が受け継いだ本当の名はは、マリア・ラベンダー・ガルドラよ」


「ガル……ドラ……」


「ええそうよ。ジン・エルス・ファドラさん」


ジンは目を見張ってフローラの顔を見たまま動けなくなってしまった。二人の苗字の後ろについている、「ドラ」という言葉は、ルードの言葉で「魔法を操るもの」を意味する。 つまり、フローラとラベンダーは魔力こそ失っているものの、正統なルードの里の末裔の一人だったのだ。


「あなたにこんなことを話してしまうことがいい事なのかどうか、迷ったんだけどね。でも、あなたには話しておくべきなんじゃないかと、そう思ったの」 フローラは、ジンを見ながら静かにそういった。


 話を聞き終わっても、ジンは俯いたまま顔を上げることができなかった。あの明るいラベンダーに、そんな過去があったとは思いも寄らなかっただから。


「昨日、ラヴァンがすべての命に優しいという話をしたでしょ?」暫くしてから、またフローラは静かに口を開いた。


「魔法使いは、魔力と呪文と精霊への愛情で魔法を使うでしょ?」


「え?……精霊への愛情?」


「あら?違ったかしら?魔力と呪文だけで無理に魔法を使うと、魔道師か悪魔になってしまうと祖母から聞いたけど」


「あっ……」


そういえば、そんな話をされた記憶がある。しかしジンは、「なにが精霊への愛情だ」と大して重要なこととも思わず、聞き流してしまっていた。


なにかを考えている様子のジンにそっと視線を向けながら、フローラは話を続けた。


「ラヴァンはあらゆる命に対して深い愛情を持っている。つまり、あらゆる命が宿している精霊に愛情を注いでいるので、精霊からも同じように愛されている子なんだと思うの。だから、あの子はあれだけの強い治療力を持ったまじないが使えるんじゃないかしら?」


「そ……そうかもしれません」


ジンはフローラの問いに対して、そう答えるとまた俯いて考え始めた。精霊へ愛情を持つことなど、里にいたときには少しも考えなかった。それは、自分以外の命に対して関心がなく、愛情を持とうとしなかったジンの今までの姿勢がそうさせていたのかもしれない。 ルナが言っていた、ステージアップ試験にジンが落ちた本当の理由はそこにあったのだ。 3人一組で、過酷な状況下で下級生を護りながら頂上を目指す。その状況で、いかに下級生と仲間に対して愛情をもって接することができるか、それこそが最終試験でクリアしなければ課題であったことに、ジンはフローラの話を聞いて今気がついたのだった。



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