1. ステージアップ試験 3
1. ステージアップ試験 3
試験会場に着くと、姉のルナが入り口に立っていた。ルードの里では、全ての魔法使い達に、いろいろな仕事が割り当てられることになっている。今年は、姉のルナに受験生を案内する仕事が回ってきたのだ。
「ジン、おはよう。頑張ってね」
ルナはそういうと、試験の詳細が書かれた紙をジンに手渡すと、ジンはわざとルナの顔は見ずにひったくるようにしてその紙を受け取った。
「ちょっと、アンタ態度悪いわよ!」
背中に、ルナの声が浴びせられても振り返ることもせず、ジンは歩きながら試験の詳細が書かれた紙に視線を落とす。実技試験は、4人一組で行われるらしい。 くじ引きで決めた受験生3人と下級生一人が組みになり、試験のために作られた塔の頂上にある部屋までたどりつくというものだった。 塔の中は、迷路のようになっていて、あちらこちらにトラップが仕掛けられている。そのトラップを、魔法でクリアしながら上階へ上がっていくのだ。 集合場所になっている塔の大広間には、すでに何人もの受験生が待機していて、みな小さな紙を見せ合っては何か話している。
「こちらでクジを一枚引いてから、広間へお入りください」
その声に促されて、ジンは箱の中から一枚クジを引いた。 その紙には、“1”と書かれていた。つまり、最初に試験に臨む組になったということだった。 受付の女性にその番号をみせると、床に「1」とかかれた場所で待つようにいわれた。 よくみると、確かに大広間の床には、番号の書かれた紙が置いてあった。
「まともなヤツとあたるといいんだけどな」 ジンは、独り言を言いながら自分の組の番号の所へ向った。
すでに、「1」と書かれた紙のところには、一人の受験生が立っていた。 テレスだった。テレスはトップクラスの成績の女子だ。 性格もよく、しっかり者の長女タイプという感じだった。
「おはよう、ジン。よかった、ジンといっしょなら心強いわ」テレスは、少しほっとした顔をして笑った。
「やあ、テレス。」 ジンはそう言うと、周りの組を眺め回しその顔ぶれをそれとなく探った。
まもなくもう一人の受験生がやって来た。マルクだった。 マルクは高等魔法学校時代、いつも補習と追試を受ける組に入っていた。 しゃべり方ものんびりとしていて、ぼーっとしている印象があった。ジンにとっては、一番話をしたくないタイプだった。
「あら、マルクもいっしょなのね。よろしくね」テレスがマルクに声を掛ける。
「ジンとテレスといっしょの組なんて、信じられないよぉ」マルクはのんびりと言うと、
「オレの足を引っ張るような事はするなよ」ジンは横目でチラッとマルクを見るとそう言い放った。
「ちょっとジン、いくらなんでもそれは言いすぎじゃない?」テレスが言ったが、マルクがそれをそっと制し、「そうだね、足を引っ張らないように一生懸命頑張るよ」と言った。
やがて、大広間の入り口の大きな扉が閉じられると同時に、各組のところに試験官が下級生を一人ずつ連れて来た。
「なんで下級生なんか連れて行かなきゃいけないんだよ」
ジンが、下級生の男の子の方を横目で見ながら独り言を言うと、下級生は下を向いてしまった。その様子を見ていた、しっかり者で仕切り屋のテレスが、慌てて下級生に近寄る。
「おはよう。私はテレス、こっちがジンで、こっちがマルクよ。今日はよろしくね」
テレスがそういうと、下級生はおどおどとした様子でジンとマルクに向って頭を下げて挨拶をした。
テレスに続いて、今度はマルクが下級生に近づくと、腰をかがめて下を向いている下級生の顔を覗き込みながら、「君の名前は?何年生?」と尋る。下級生が、顔を上げて答えようとすると。いきなりジンが口を開いた。
「こんなやつ、下級生にいたか?まいいや、どうせ今日の試験だけしか付き合わないんだ、名前なんかどうでもいい。オイ、チビ、へまするんじゃないぞ。今日は俺たちのステージアップのために、大事な最終試験なんだからな」
「ちょっと、ジン。この子は、私達の試験のためにわざわざ朝早くから来てくれているのよ。そんな言い方ないじゃない。」
テレスはジンに抗議をしたが、ジンはまるで取り合う様子は無く組の全員の顔を見回して、「時間だ、行くぞ」と言った。