5. 本当の理由 5
5. 本当の理由 5
ルードの里で暮らしていた頃、ジンは人前では何事にも冷めた態度を取っていた。 鳶色の瞳と瞳よりも少しだけ明るい色をした髪。はっきりとした二重の大きめな目と鼻筋の通った丹精な顔立ちのジンは、いつも人目を集める存在だった。 それに加えて里で一番の実力を持った里長の息子という立場も、ジンが常に周りの注目を浴びる要因になっていた。そのためにジンの周りには、容姿端麗な里長の息子だからという理由だけで、ジンとかかわりを持とうとして寄ってくる連中も数多く存在した。
「里長の息子」という立場は、自然と里長である父や能力評価の高い姉兄と比べられることにも繋がる。そんな人たちのしがらみの中で、いつの間にかジンは、人前では何事にも冷めた態度を取るようになって行った。 常に自分に発せられる、『さすがにあの里長の息子だけのことはある』という言葉の陰には、「里一番の血を継ぐ者だから、これくらい軽いものだろう! 」という言葉が隠されていることも知っていた。自分に与えられた天性の魔法センスと魔力を持ってすれば、それは出来て当たり前のことだったのかもしれない。しかし、天性に与えられたものだけで、すべての事柄に対してトップの座を維持することなどできるはずがなかった。 そのためにジンはいつも、自分の部屋やあの南斜面の原っぱで、誰にも知られることなく一人で魔法の鍛錬をしていた。
ステージアップ試験の時に魔人の攻撃を回避するために使った魔法回避の魔方陣もそうだった。魔方陣は完璧に描くことができて初めてきちんと発動する。レベルが上がれば実際に描き上げなくても発動させることができるが、ジンのレベルではまだそうはいかない。 なんの道具を使うこともなく、精密に、正確に魔方陣を描き上げることができるようになるためには、想像以上の努力を要することは里の魔法使いなら誰でも知っている。 試験の時に、試験官が別れ際にジンに言った。「さすがだな」という言葉の
裏には、そんなジンの人知れない努力の成果に対しての評価が含まれていた。
そうして、ジンは常にトップの評価を手にしてきた。別に周りの評価ばかりを気にしてそうしてきたわけではないが、ジンの中にあるプライドがそれを当然のこととしてジンに課してきた。 そしてジンは、自分の実力が上がることと比例して、周りの魔法使いに対して見下すような冷たい感情を持つようになった。特に、能力がない、成績の良くない者達に対してはあからさまに軽蔑の目を向けた。 しかし、そんな態度を取ってしまうことは、自分の能力に甘んじることなく努力を惜しまないジンにとっては、当然のことだったのかもしれない。 そうして築き上げてきた自分の自信もプライドも評価も、あの日の爆風ですべてが吹き飛ばされてしまった。そんな失意のどん底にいたジンの目の前に、ラベンダーが現れたのだ。
ラベンダーは、いつも能天気とも思えるほど明るく真っ直ぐだ。嬉しいと満面に笑みを浮かべ、寂しいしいことや、悲しいことがあるとこの世の終わりのような顔をする。いつも、自分の気持ちを素直に顔に出すラベンダーのペースに巻き込まれて、ジンも里に居たときのようには振舞えなくなっていた。
今朝の一件だって……。 里にいた頃の自分だったら、「くだらない!」と一蹴して、あれほどムキになって弁解することも無かったかもしれない。 ジンは今、素の自分に戻ってラベンダーとムキになって言い合いをしてしまう自分の姿に少し驚いていた。里長の息子でもなく、常にトップレベルの成績をキープする天才魔法使いでもなく、ただの17歳の少年ジンがそこにいた。そんなジンの脳裏にラベンダーがアンソニーを見つめる横顔が浮かんで来た。
「なんでアイツあんな顔をしたんだ……」
それから、「はっ」何かに気づいて、ジンはベッドから起き上がった。ラベンダーが思い焦がれている人の事を見ているにもかかわらずその気持ちを隠すように振る舞い、しかもその横顔に寂しさが漂っていることを感じて、ジンはラベンダーの姿がいたたまれずにこの部屋に逃げ込んできたのだ。