表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラベンダーの空  作者: 凌月 葉
5. 本当の理由
24/77

5. 本当の理由 4

5. 本当の理由 4


「荷物を積むのを手伝ってくれる?」フローラが二人を呼ぶ声がする。


「はーい」ラベンダーは返事をすると、その手紙をテーブルに置き、行こうとジンに声をかけて店のドアを開けた。店の外には、ラベンダーハウスにある8本足の車より一回り大きな車が止まっていた。こちらの車には、足のほかにタイヤもついている。荷台には屋根と扉がついていた。二人は、アンソニーを手伝って、薬草の入った大きな袋をいくつも荷台に積み込んだ。


「手伝ってくれてありがとう、助かったよ」荷物を積み込み終わって、荷台のドアを閉めながらアンソニーはジンに向かって言った。


「いえ、別に」


「ラベンダーは、ちょっと気が強いところもあるけど、根は素直ないい子だから。よろしく頼むよ」そういって、ジンの前に手を差し出した。

「あ、はあ」差し出された手をそのままにしておくわけにもいかずジンはアンソニーの握手に応えた。


ロジャー達を乗せた車が、長い影を引きずるようにして遠のいていくのを見送り。その後、ジンは店のドアを開けた。


「あ・・・」


 西日に照らされて暖かかった表とは対照的に、店の中は薄暗く湿気を帯びて冷たく感じ、さっきまで笑い声が溢れていたことが嘘のようにシンと静まり返っていた。ジンはその空気の重さを感じて、店に入るのを一瞬とどまってしまった。


「どうしたの?」後ろでラベンダーが不思議そうな声で尋ねてくる。


「いや、なんでもない・・・」


 ジンの実家には、両親と姉と兄の5人で暮らしていた。父が里の長を務めていたために、いつも来客が絶えず、家の中から人の気配が消えたことなどなかったのだ。ジンはそれを小さい頃から煩わしいと思ってきた。それだけに、人気のない家というのがこれほどまでに寂しい空間になってしまうとは思ってもみなかった。見慣れた店やそれに続くリビングの景色が、黄昏の薄暗がりに飲み込まれて、自分が知らない世界に迷い込んでしまったような錯覚さえ感じたのだ。


 この家に来てから、フローラの優しさやラベンダーの明るさに包まれて過ごしてきて、まさかここがこんなにも寂しい場所であったなんて気づきもしなかった。逆に言えば、こんな寂しい空間のなかでずっと肩を寄せ合うようにして二人は暮らしてきたのかと思うと、ジンは動揺を隠せなかった。


「なにやってるの?」ラベンダーが声をかけてくる。

ジンは、自分が動揺していることを気づかれないようにして、わざと明るいつくり笑顔を顔に貼り付けて振り返った。


「いや、別になんでもない」


「ロジャーさんたちと話して疲れちゃった?」ラベンダーは心配そうに覗き込んでくる。


「そ、そんなことないって。いい人達だったなって、そう思い起こしてただけだよ」


 自分でも言い訳じみた言葉だなと思いながら、ジンはそう言って笑ったが、ラベンダーはどこか納得がいかない様子で、「直ぐに夕飯の支度するから、もうちょっと待っててね」と言い残してキッチンに行ってしまった。


「疲れたでしょう?今朝も早かったし、少し部屋で休んでてくるといいわ。それと、今日はお肉が来たから、遠慮しないで沢山食べてね」フローラもそうジンに声をかけるとキッチンに向かった。


ジンは部屋に戻り、さっきと同じようにベッドに寝転んで天井を見上げて、ルナと交わした会話が思い出していた。


「誰かのことを好きになったことがないって?余計なお世話だ……」


 里に居た頃に付き合っていた女の子のことを思い出した。しかし浮かんでくるのは、うるさく自分に縋りついてくる女の子の腕や休む暇もなく話しかけてくる口元ばかりで、それがどんな子顔をした子だったのか一向に思い出せない。


(俺はまともにあの子達の顔を見て付き合ってなかったんだ)


 あの頃の自分は、里を出ることしか考えていなかった。そして、その際にしがらみになりそうな人間関係を作りたくないと思っていた事も事実だ。それにしても、顔さえもまともに見ることもない関係を付き合っていたといえるのだろうか?そう思うと、いまさらながらなんて無責任だったんだと愕然とした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ