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ラベンダーの空  作者: 凌月 葉
4. ラベンダーの初恋
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4. ラベンダーの初恋 4

4. ラベンダーの初恋 4


 ロジャーとアンソニーは、正午前にラベンダーハウスに到着した。


 ロジャーは、中年の人柄のいいおじさんという感じの人物だった。植物学者だったフローラの亡夫の教え子ということもあり、彼の学生時代から付き合いがあるのだという。 アンソニーは、最近の若者らしくロジャーよりも上背がある好青年だった。フローラがアンソニーにジンの着替えを持ってきてくれるように頼んでいたらしく、「学生時代のお古で悪いけど」と言いながらジンに数枚の着替えを差し出した。 リビングで一緒に昼食をとりながら、フローラがジンがここに来た経緯と記憶喪失にかかっていることなどを改めて説明してから、二人にジンを紹介した。


「よろしくお願いします」


「どんな子が来たのかとちょっと心配していたんだが、話をしてみるとしっかりしていて、なかなかいい少年じゃないか」


礼儀正しく頭を下げるジンの様子を見て、ロジャーとアンソニーは安堵した様子を見せた。


 リビングで賑やかに談笑する大人たちの中に、ラベンダーの姿がないことに気がついたのはそれから程なくしてのことだった。ふと見ると、ラベンダーはキッチンで皿を洗いながらアンソニーの横顔にチラチラと視線を送っている。アンソニーが笑うと、その横顔の先のラベンダーの顔も嬉しそうにほころんだ。

 アンソニーは、ちょうどジンの姉のルナと同い年だ。一般的に見れば好青年かもしれないが、10代のジンからしてみれば、それはただのおじさんにしか見えない。確かにアンソニーは、真面目で柔らかい物腰の人物だったが、いくらラベンダーが人里離れた地に暮らしをしていて、アンソニーが憧れの存在なのだといわれても、ラベンダーが何故こんなおじさんの笑顔を嬉しそうに見ているのかジンにはさっぱり理解できなかった。


 食後のお茶を飲みながら、アンソニーの職場や今暮らしている大きな街のことで話題に花が咲く。外界に対しての知識も、地理的な知識もないジンにしてみたら、そんな話を聞いていても会話に入れるわけでも、頷けるわけでもなく退屈なだけだった。ラベンダーは少しだけ離れたところに座って、アンソニーの話を嬉しそうに頷きながら聞いている。


(それにしても……、なんでラヴァンは離れたところに座っているんだ?)


 アンソニーが訪ねてくるまで、待ちきれない様子であんなにはしゃいでいたラベンダーは、アンソニーの顔を見ても手をとることもなく隣の席に座ることもなく、自分から話しかけることもない。 ジンは今までルードの里でそれなりに女の子と付き合ってきたが、その誰もがジンと手をつなぎたがったり、話しかけてきたりとうるさいくらいにまとわり付いてきた。しかしラベンダーは、アンソニーに好意を寄せていることすらも隠すように、少しだけ離れたところから愛惜しそうに横顔を見つめるだけで、見ているこちらのほうがもどかしくなってしまうほどだった。


 ここに来てから2週間が経とうとしていたが、自分が知っているラベンダーはいつも明るく無邪気で、人懐っこい子犬のような感じの子だったのに……。ジンは、ラベンダーの姿を見ているうちに自分がそこにいてはいけないような気持がしていた。


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