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ラベンダーの空  作者: 凌月 葉
4. ラベンダーの初恋
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4. ラベンダーの初恋 1

4. ラベンダーの初恋 1


 ラベンダーハウスは、シエル山と呼ばれる山のかなり標高が高い場所にあった。シエルとは「空」という意味で、空に届きそうなほど高い山であることから、古来からそう呼ばれてきた。

 山の朝は麓よりも早く美しい。特に、初秋を迎えた今の季節は格別だ。夜明け前の雲海の向こうの東の地平線から空に向かって、舌状の淡い黄道光の帯がスッと延びると、漆黒の闇に覆われていた景色が徐々に青のグラデーションによって浮かび上がり、それとは逆に、遥か遠くの山の稜線が黒々と映し出される。そしてその山の稜線が金色に滲み始めると、冷たく凛と張り詰めた空気を切り裂くように太陽の光が差し、万年雪を冠ぶったシエル山は、山頂から少しずつ下に向かって彩を取り戻していく。

そうして、ラベンダーハウスは静かに朝を迎えるのだが……。


「キャーーーーー!!!」

しかしその日の朝は、静けさを切り裂く大きな悲鳴によって始まることになった。




 ロジャーがラベンダーハウスにやってくる前日の夜。ジンは、悪夢に襲われて揺さぶられるようにして目を覚ました。

 夢の中で、ステージアップ試験の時の黒い魔物が大きな口を開けてジンに襲い掛かってきた。どんなに逃げても、魔物との距離は一向に縮まらず引き離すことができない。いつの間にかに魔物は電撃攻撃の嵐に変わっていた。逃げ惑うジン。しかし、攻撃の手は休まることを知らず、的確にジンを追い詰めていく。ふと気がつくと、ジンの周りには黒くよどんだ霧も立ちこめている。(いつの間にこんな霧まで……)と思っていると、黒い霧の中に二つの光が現れた途端に、霧はモコモコと魔物に形を変え、ジンはその魔物の大きな口に飲み込まれそうになる。


「わぁ」思わず声を上げて起き上がると、ジンはベッドの上にいた。全身にぐっしょりと汗をかいている。

「夢か……」

 先週ロジャーが、麓の森に黒い霧が出たためにラベンダーハウスに来る事ができなくなったと連絡を受けたときから、ジンはその霧のことが引っかかっていた。もしかしたら、今日ロジャーが来ることを知って、自分で意識をしないうちに、その黒い霧への不信感があんな夢を見せたのかもしれないと思った。


そのとき、部屋の窓に朝日が差し込んできて、部屋がにわかに明るくなった。

「そっか、まだそんな時間なのか」

ふと昨日の朝、リビングで文句を言ってきたラベンダーの顔が脳裏をよぎる。

「たまには早起きして、あいつを驚かせるって言うのも悪くないかもな?」

そう独り言を言うと、ジンは足音を忍ばせて階下へ降りて行った。



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