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ラベンダーの空  作者: 凌月 葉
1. ステージアップ試験
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1. ステージアップ試験 1

1. ステージアップ試験


「あ、またあの夢だ……」ジンはそう思った。





「心配しないで大丈夫、安心して」

心の中に柔らかな女の子の声が響き、やがて、ジンの体をオーラのようなものが包み込むのを感じる。


それは、とても優しくて温かくて誰かの腕の中に抱かれているような安心感を与えてくれた。

ジンは、そのオーラのようなものによって体だけではなく心も癒されていくのを感じながら、深い眠りの中に落ちていく。


やがて、だれかに優しくゆすられて目を覚ますと、目の前に柔らかな緑色の光があり、見上げると真っ青な空が広がっている。


「さあ、お行き」と、またあの女の子の声が聞こえ、その声に背中を押されるようにして、ジンは真っ青な青空に吸い込まれて行く。



 

いつの頃からこの夢を見るようになったのか、ジンはあまりよく覚えていない。

ただ、何か怖い事があった時や、不安な時に、決まってジンはこの夢を見た。

そして翌朝目覚めた時には、心の中に、夢の余韻とともにとても平穏な安心感と勇気のようなものがあるのを感じていた。





「ふう、オレらしくもない。たかがステージアップ試験くらいで……。なにをビビっているんだか?」


ジンは、鏡の中の自分の顔を見ながらそうつぶやいた。


 ジンは今日、魔法学校のステージアップ試験を受けるのだ。

ジンが住んでいるのは、ルードの里。ここは、魔法使いだけが住んでいる国だった。


 ルードの里は、周りを「迷いの森」と呼ばれる深い森に囲まれ、しかも里には幾重にも結界が張られていて、決して人間が近づくことができないようになっていた。

そのために、里から見上げた空は、青ではなく、薄いラベンダー色に見えた。

ジンは、結界とラベンダー色の空が大嫌いだった。それは、いつもジンの前に、どっしりと腰をすえて立ちはだかり、ジンをどこにも逃がすまいと、上から蓋をされているように感じるからだった。


 ルードの里が、こんなにも厳重に結界を張るようになったのには、それなりの理由があった。

魔法使いと人間は、外見的にはほとんど違いはなく、昔は同じ街でいっしょに暮らしていた。

しかしある時代に、魔力を利用して人間に悪いことをする魔法使いや、逆に魔法使いを騙して利用し、悪いことをする人間が増えてしまった。


そのために、当時の王様によって、大規模な魔法使い狩りが行われた。魔法使い達は、その魔法使い狩を恐れて、身分を隠してひっそりと暮らすようになったのだった。


 しばらくして世の中が平穏になり、魔法使い狩りは行われなくなったが、

魔法使い達は再び狩が行われることを恐れ、身分も魔力も隠したまま人間達の中で静かに暮らしていた。


しかし、平穏な時代はそう長くは続かなかった。そのころ権力を3分していた国の間で大きな戦争が起こった。

その戦争は、三つ巴状態での一進一退の攻防が繰り返され、何十年も続いた。


思うように行かない戦況に業を煮やしたある国の王様が、また魔法使い狩りを再開し、捕らえた魔法使い達を次々と戦場へと送り出した。

なぜなら、魔法使いは、戦士としてすぐれた才能を持ったものが多かったからだ。


すると、他の2つの国でも、自分の国に住む魔法使い達を、こぞって戦争にかりだすようになった。

このままでは戦争によって一族全てが殺されてしまう、と考えた魔法使いの長は、生き残った魔法使い全てを連れて迷いの森の奥深くのルードの里に移り、そこでひっそりと暮らしていくことにした。


ルードの里にたどりついた魔法使い達は、これからも平和に暮らしていくために、いくつかのルールを決めることにした。その一つが、魔力の封印だった。


 魔法使いは、生まれながらにして魔力を持っている。しかし、その力の使い方を間違えれば、とんでもないことになってしまう。

そのために、生まれた赤ん坊全てに、魔力の封印を施すことにしたのだ。

そして、力を正しく使うことができるようになった時に、その能力に応じた魔力が使えるように、一つずつ封印を解くことにした。

ジンが今日受けるステージアップ試験がクリアできれば、ジンもまた一つ封印を解かれ、ワンステージあがることができるのだ。


 徐々に封印を解かれる毎に、上の学校に進学することを許され使える魔法のレベルも高くなるというシステムだった。

全ての魔法使いが、全ての封印を解いてもらえるわけではなかった。つまり、一人一人の力に応じたレベルまでしか、封印は解いてもらうことはできなかった。


 ジンは今十六歳。ジンの父は里の長を勤めている。

その父の血筋のせいか、八歳違いの姉のルナも五歳年上の兄デュークも、通常よりも早い年齢でファイナルステージをクリアしていた。

そして、ジンもまた、生まれながらにして魔法の才能に恵まれ、通常よりも早く、魔法大学院に入学しようとしていた。

魔法大学院に入学できるようになると、ようやく攻撃魔法を使えるようになり、ようやく一人前の魔法使いとして認めてもらえるのだ。


「子ども扱いは、もう今日で終わりさ」ジンは、誰に向うでもなくつぶやいた。


 ジンの家族は、みなファイナルステージまでクリアしている。

そのためにジンは、家の中で一人だけ、ずっと子ども扱いされてきた。


小さい頃から、自分の魔力や魔法の才能に関して高いプライドを持っていたジンにとって、それはとても嫌なことだった。

そして、ステージがアップするということは、ジンが長年計画してきた夢を実行に移すためにも必要なことだった。

その夢とは、このルードの里から出ることだった。

ジンは、この狭いルードの里が嫌で嫌でたまらなかった。そのために、今まで何度も、結界の外に出ようと、あらゆる方法を試してきた。

しかしその度に、結界に阻まれてきたのだ。

だが、ファイナルステージをクリアすれば、自分の魔法で結界から外へ出る事ができる。

小さい頃から幾度となく繰り返し見てきた、あの夢の中のような、真っ青な広い空の下で自由に生きて行きたいと、ずっと思ってきたのだ。


 いままでジンは、ずっとトップの成績でステージをクリアしてきた。高等魔法学校でも成績首位の座を誰かに譲った事は一度も無く、学校の中では、一目も二目も置かれてきた。

ジンの周りは、いつもジンのファンの女の子が群がり、同級生達もジンのことをもてはやしていた。

だからこそ飛び級をして、十六歳で高等魔法学校を卒業することもできた。

ステージアップ試験は、体力試験と魔法理論の筆記試験と判断力と魔法の技術を試される実技試験をクリアしなければならなかった。

しかし、体力試験も筆記試験も、どちらもジンは満点でクリアしている。

しかも今日は、試験の中で一番得意な実技試験。

ステージアップ試験はクリアしたのも同然だと、ジンはそう思っていた。

だが、一つだけ引っかかることがあった。そう、昨日の夜あの夢を見たことだった。


「ま、特に問題は無いだろう」

ジンはまた一人でそうつぶやくと、試験会場に向った。

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