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第四話 幼馴染

ちょっと短いです。




「なぜ……ここへ来た?」


 蒼潤(ツァンルン)たちが執務のため離宮を離れたのを見届け、安里(アンリ)は口を開いた。


 先ほどから細かい雨が降り出し、静かな庭園はさらに厳かな空気に満ちている。

 外の空気を嗅ぐように、窓から顔を出して鼻をくんくんさせていたウーは、くるりと向き直って簡潔に答えた。


「ずっと探してたから」


 じっと見つめてくる茶色の瞳に、安里のほうが耐え切れず、目を逸らした。


「あの後、何も言わずに消えてしまった安里を、俺はずっと探してた。……何年ぶりだ? 十年くらいか?」


「………十二年だ」


 そっぽを向いたままでぼそりと答える安里に、苦笑いをしたウーは、どかりと椅子に腰掛け、花幻(ファーファン)に向かって言った。


「花幻、茶!」


 簡潔な要求に、誇り高いこの風の精霊が怒らないはずはなかった。


「私はあなたの召使いではありませんっ!」


 花幻はこの前蒼潤にぶつけたのより倍は大きい竜巻を、乱れたウーの頭に叩きつけ、同時に卓の上の茶器の乗った盆を取り上げて、すごい勢いで出て行った。怒りつつも律儀である。


「うはは! 久しぶりだな!」


 頭に刺さっていた木の枝を抜きながらなぜか嬉しそうに笑い出したウーは、自分の守護精霊を呼んだ。


焔火(イェンフォ)。お前ちょっと行って、花幻手伝って来いや」


 その声にぴょこんと飛び出したのは火の玉で、次の瞬間に、赤く燃える髪の少年に変化した。こくりと頷くと小さな少年は花幻の消えた方向にふわりと飛んでいく。


「……焔火も、人型を取れるようになったのか? ……成長が早いな」


「はは、まだ不安定だけどな。あいつも頑張ってんだ」


 部屋の柱に寄りかかり腕を組んで立っている安里を、椅子に座ったウーが見上げるように見つめる。


「何か、話があるのだろう? わざわざ花幻と焔火を遠ざけた」


 安里の方が静かに問いを発した。ウーはくすりと笑って言った。


「あれは焔火のためさ。ずっと花幻に会いたがってた。ま……」


 ウーは途中で言葉を止め、自嘲気味に笑った。


「それはそれだ。俺も安里に言いたいことがあったからな」


 途端に真剣な色を帯びた目で見つめられた安里は少し身構えた。


「諦めないことを……安里に伝えたかった。俺は、諦めない。一緒に、生きることを」


 はっきりと言い切ったウーとは対照的に、衝撃から身を守るように体を抱きしめた安里は、眉間にしわを寄せ、目を閉じた……。



  

     *




 いつにない勢いで、執務をこなす。そして何とか空き時間を作り、一秒を争うように蒼潤は離宮に戻った。結局、紅武という青年が、何の目的で安里の元へやってきたのかを聞いていない。嫌な予感を拭い切れず、よくわからないまま焦る。


「安里! 戻ったぞ!」


 勢いよく離宮の扉を開け、高らかに声を上げた蒼潤であったが、そこに思い描いていた姿はなく、がっかりと肩を落とした。


「おやっ? 皇帝陛下か?」


 そこへ裏の方から姿を現したのは、他でもない、ウーであった。顔を洗い、頭の布を巻きなおしすっきりした様子は、まるで先ほどとは違う元気溢れる好青年であった。

 呉晴がいたら間違いなくカンカンに怒るであろうウーの不敬な態度も、蒼潤にはなぜか大して気にならない。


「安里はどうした?」


 まるで友に問う様に気安く聞いた。ウーも何事もないように答えた。


「少し休むって、寝室へ行ったぞ。なぁ、年取ると寝つきが悪くなるのな! 昔はねっころがったら三秒で寝てたのにな、今は一分くらいかかるんだぜ? しかも最近俺、朝すげー早く目が覚めるようになってさ!」


 一分で寝られるなら十分寝付きはいい、羨ましい、などとどうでもいいことを考えつつ、蒼潤は素直な疑問を口にした。 


「年取るとって、そなたは何歳なのだ? まだ十八くらいであろう? 安里も歳などと……」


「は? 俺も安里も、今年二十八だぞ」


「…………?」


 思わず首を傾げ、固まってしまった蒼潤に、ウーは気づかないまま言葉を続ける。


「やー俺しょっちゅう若く見られるけど、さすがに十はさば読めないよなぁ! そんな若く見えるか? ま、安里は仕方ないけどな」


「ちょ、ちょっと待て! ……二十八とは、本当なのか? その、そなたはともかく、安里は、どう見ても十五、六であろう?」


 そのあわてた蒼潤の言葉に、ウーはぴたりと動きを止め、蒼潤の顔を凝視した。


「……知らないのか? お前……」


 急に真剣な表情になったウーに、思わずびくりとしてしまう蒼潤。


「な、何を知らぬと……」


 じっと蒼潤の顔を見つめ続けた後、ようやく口を開いたウーは胡乱げな表情でこんなことを言った。


「そもそも皇帝陛下、なぜ安里をこんなところへ住まわせる? ……まさかとは思うが、あいつを后にでもと考えているんじゃ?」

 

 ぴたりと図星を突かれ動揺するも、何も疚しいことはないと、蒼潤は声を上げた。


「そ、そうだ。私は安里を后にしたい。彼女以外、考えられない」


 きっぱりと言い切った蒼潤を見、緊迫した気配はそのままに、ウーはがしがしと頭を掻きながら、卓へ歩み寄った。


「座ろうぜ、皇帝陛下。長い話になる」


 生まれてこの方こんな風に雑に扱われたことはなく少し戸惑ったが、結局従うよりほかない蒼潤は、顔中に疑問符を貼り付けたままゆっくりと椅子に腰掛けた。


「……話してやる。俺が知っている全てを。安里を諦めてもらうには、それしかないからな」


 その言葉に蒼潤は、がたんと立ち上がり、抗議の目でウーを見た。


「諦めてもらう……? そなた、何を申しているのか、わかっているのか?」


 気色ばんだ蒼潤に、ウーは手をひらひらさせ、そちらを見ずに言った。


「あー、焦んなって。とにかく話聞けよ」


 わけのわからなさに苛立つ気持ちを押さえきれないが、話の主導権がウーに握られている為、蒼潤はやはり彼の言葉に従う他ない。しぶしぶ席に戻り、話を聞くことにする。


「俺と安里が初めて会ったのは、俺たちが六歳の時だ……」


 少し前までの軽妙さは身を潜め、重苦しい雰囲気の中、ウーは語り出した。



 

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