「あ」から始まる物語
シリーズ二話目
*注意:前回書き上げた短編小説「あいうえお作文」の続きです。
先輩(♀)と後輩(♂)が送る日常会話。
会話の文頭が「あ」から「ん」の五十音順としています。地の文だけは除外しています。なお、濁点と半濁点がついた文字は省略しています。また、「を」の文字を「お」としています。
それでは、「あ」から始まる物語をお楽しみください。
「あの! 僕なんかでよければ、よろしくお願いします」
「いい返事が聞けて嬉しいよ、後輩くん」
「うそじゃないですよね」
「えそらごと(絵空事)だとでも言いたいのかい?」
「おかしい、とまでは言いませんが、先輩が告白してくるなんて信じられなくて」
右手の人差し指で頬をかき、苦笑いをする僕を見て、先輩はため息をつく。
「かれこれ二週間だな」
「ききたいんですけど、何がですか?」
「くしょう(苦笑)するしかないが、私は好意を示していたのだよ? 二週間前からね」
「けっこう前ですね。というか、そんなことしてましたっけ」
「これがまた、後輩くんが全然気づいてくれなくてね」
今度は先輩が苦笑いをして僕を見る。僕は腕を組み、記憶を二週間前まで遡らせるが。
「さっぱりです」
「しかたがないと言うか、何と言うか。私がしたことは無駄だったのかねぇ」
「す、すみません!」
「せんぱいという立場がダメだったのかな」
「そんな落ち込まないで下さい。いや、僕が言うのも何ですけど」
あっ、睨まれた。ごめんなさい。あと、思い出せないので、何をしたか教えてください。
「たとえば、本屋に行ったのは覚えているかい、後輩くん」
「ちかくにある、あの本屋ですよね。覚えてます」
「ついて来てくれと頼んだろう?」
「てつだいだと思ってました」
「としょかん(図書館)に行ったり」
荷物持ちだと思ってました。だって百科事典級の本を五冊とか、誰でも思うよ。そう考えていると、先輩がジロリと半目で見てきた。
「なんでしょう」
「にど(二度)三度と色々と誘ったんだがね」
「ぬかりました。じゃあ、だめですか」
「ねごとは寝てからどうぞ」
「の、望通りに寝てあげましょう」
先輩がニヤニヤしながら、前に僕が言った台詞をそのまま返してきた。そんな事言われたら、僕の台詞はこれしかないじゃないですか。すごい恥ずかしいんですけど。
「はて? 何の事かな」
「ひどいですよ!」
「ふたりきりだし、いいだろう」
「へ?」
「ほら、膝枕だ」
先輩が椅子を少し後ろへ引き、自分の膝をぽんぽんと叩く。え、寝ていいの? 寝るべき? 寝なきゃだめ? ゴクリと生唾を飲み込む。
「まっままま、まじですか?」
「みての通りだが? 嫌なのかい」
「むりです。恥ずかしすぎて死にます!」
「めったにないよ、こんなチャンスは」
「もしかしたら鼻血出すかもしれませんよ!」
うわー、今、絶対顔赤いな。先輩に聞こえるんじゃないかってくらい鼓動が激しいし、体温も高くなってると思うし。あれ、先輩。何か企んでません?
「やはり、私が積極的にならないとダメみたいだね。こっちに来るんだ後輩くん」
「ゆゆ(由々)しき事態です! 僕の中でエマージェンシーが! ちょっと休憩してきます!?」
「よかったらここで休憩したらどうだい」
ちょっ、先輩。笑いながら僕の袖を引っ張らないで!? ……先輩の膝枕か、これホントに鼻血出るんじゃないか?
「らっきーなのかアンラッキーなのか」
「りかいに苦しむね。私がこうやって後輩くんを誘ってるのに。詳しく教えてもらおうか」
「るじゅつ(縷述)するまでもないですよ。一言で言うと、恥ずかしいんです」
「れんあい(恋愛)をするには難儀な性格だね」
「ろくでもない性格ですよ」
そう言いながら、先輩の横に椅子を二つ並べる。端の椅子に座ると、先輩が一つ聞きたいことがあると言ってきた。
「わたしなんかを好きになって良かったのかい? 私よりも可愛い女の子なんて、他にもたくさんいるだろう?」
「をんな(女)の子は世界にたくさんいますけど、先輩は世界に一人ですから。先輩しかいませんよ」
「ん」
先輩は一瞬キョトンとしたが、すぐに笑顔になって、僕の顔を自分の膝に引き寄せた。
地の文を、描写を書きたいです。自分が決めた条件の中に、「一行ごと(あ行の後)に地の文を挟む」としています。これは、会話ごとに地の文を挟んだり、中途半端に入れたりすると「あいうえお」の文章が見づらくなると思ったからです。
自分で書いていてなんですが、この先輩と後輩の行動にやきもきします。会話が制限されている分、自由が利かないんですね。たまに、自分でもビックリな方向転換をすることもあります。
このような縛りで恋愛を書くのは無謀かもしれませんが、少しでも先輩と後輩の会話からアイを感じてもらえれば嬉しいです。
感想待ってます。