改札のラブレター ~SIDE B~
あの日、私は東京から逃げてました。
何カ月も前から田舎にこっそり戻り、隠れて暮らしていました。
そんな時、東京の住所を知らせて無かった幹事の森君が、実家に同窓会の葉書を送って来たの。
出席するかは迷いました。
私は田舎からも逃げようと、あの日駅に行きました。そんな時、あの改札であなたに出会ったの…。
あなたが東京に行った事は知ってたけど、正直田舎者丸出しの格好で帰って来たあなたを見て、笑っちゃった。
あなたと一緒なら、自分が都会の女に見えると思って、同窓会に参加したの。ごめんね。
流れで一緒に東京へ戻る事になったけど、正直戻りたく無かったわ。
だって…あそこに戻ると元彼を思い出すんですもの。
でも、あなたと会う約束をして、毎日しつこく電話ばかりされるうちに、元彼の事を気にする余裕なんて無くなっちゃった。
もうこれで良いや~って思える様になったんだよ。
だって、あなたと居ると、自分が幸せな人間だって思えて来るもん。
軽い気持ちで付き合って、同棲して…私はあなたに欲しい家具を強請りっ放しだったわね。でも子供ができちゃった時は失敗したって思ったわ。あなたは喜んでたけど、私は迷ってたんだよ。
万年出世できないような男の子供を産んで、この先ずっと一緒に居なきゃならないのか?って…。
でも、その時のあなたの笑顔は、今まで見て来た男の表情じゃ無かったの。
カッコ良くなんか無いし、渋くも無い。仕事ができる訳でもないし、お金がある訳でも無い。なのに、何でこの人はこんなに幸せそうなんだろう…。
釣られて私も笑顔になっちゃった。
あなたと過ごした二十七年。
ずっと幸せだった訳じゃ無いけど、母親になるって幸せだと実感できた二十四年間だったわ。
私は今、その子とあの改札に立っています。
二十七年間、ありがとう。ここからまた、二人の家族として生きて行きます。