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序章

それは、クリスが生まれる数百年前の出来事だった。

天においてはすでに、人間への救いが差し出されていた。

人は、神を離れて久しかった。

地上では、

王たちは争い、

民は奪い合い、

力ある者が弱き者を踏みにじる。

それでも人は

確かに、生きてはいた。

だがそれは、

決して良い世とは呼べるものではなかった。

そのすべてを、ひとりの天使は見ていた。

ザーケン。

彼は、人間を見守る者だった。

そして同時に、強く思っていた。

――これは違う。

ある日、天で言い争いが起きた。

「おまえのせいで、こうなったのだ。」

ザーケンは言った。

「人間は神に従わずとも生きているではないか。」

強い天使は、静かに答えた。

「生きているだけだ。」

その言葉に、ザーケンは反発した。

「それでも生きている。

ならばそれでよいではないか。」

しばし沈黙が流れた。

やがて強い天使は言った。

「ならば――見てくるがいい。」

次の瞬間、空間が歪んだ。

ザーケンの体が、光の外へと弾き出される。

「自分の目で確かめよ。」

その声が遠ざかる。

ザーケンは落ちていく。

天から地へ。

「わっははははっ――!」

その笑い声が、星々の彼方へと消えていく。

堕ちる。

光の層を突き抜け、

冷たい虚空を越え、

青い星へと向かって。

ザーケンは叫ばなかった。

ただ、初めて“重さ”を感じていた。

やがて――

ドン、と鈍い衝撃。

地面がわずかに揺れる。

森の鳥が一斉に飛び立つ。

土煙の中、そこに横たわっていたのは――

翼なき存在。

光なき肉体。

ザーケンはゆっくりと目を開いた。

そこにあったのは、

見慣れぬ空。

そして――

鼓動。

どくん、どくん、と胸が鳴る。

彼は気づく。

「……これは……」

自分の手を見る。

血の通う指。

震える掌。

――人間の体。

天使ザーケンは、

地上に堕ちたのだった。

そしてそれは、

やがてクリスへと続く、

長き物語の最初の一歩となる。


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