第43話『檻の中の牙と、反逆の選択』
薄暗い拘束区画。
冷たい石壁と、鉄格子。
戦場から切り離されたはずの場所。
だが——
空気は、むしろ重い。
「……止められる理由が分かりません。」
静かだが、抑えきれない感情。
ルナ。
鉄格子を握りしめる手に、力がこもる。
「アリア様が狙われているのに……!」
沈黙。
その隣で——
ラフリは動かない。
壁にもたれ、目を閉じている。
だが——
「……だからだ。」
低い声。
「感情で動けば——全員死ぬ。」
冷静すぎる言葉。
(……っ。)
ルナは言葉を失う。
正しい。
だが——
「……それでも。」
小さく呟く。
「止まれません。」
その一言に——
ラフリの目が、ゆっくりと開いた。
コツ……コツ……
足音が近づく。
静寂を破るように。
現れたのは——
「……兄上。」
レオンハルト。
そして——
「状況は、最悪です。」
セラフィン。
二人は鉄格子の前で止まる。
「船内の統制は崩壊寸前。」
「内部協力者による誘導が確認されています。」
ルナの目が揺れる。
「じゃあ……!」
「ええ。」
セラフィンが頷く。
「このままでは、全滅です。」
沈黙。
重い空気。
そして——
レオンハルトが一歩前に出る。
「兄上。」
真っ直ぐに。
「力を貸してください。」
拳を握る。
「あなたが必要です。」
完全な信頼。
だからこそ——
ラフリは、短く答える。
「断る。」
空気が凍る。
ルナが息を呑む。
レオンハルトの表情が止まる。
セラフィンでさえ、目を細めた。
「……理由を?」
静かな問い。
ラフリはゆっくりと立ち上がる。
「無秩序な反撃は——ただの自滅だ。」
冷徹な現実。
誰も反論できない。
沈黙。
そして——
レオンハルトは小さく息を吐く。
「……了解しました。」
背を向ける。
「行くぞ、セラフィン。」
「ええ。」
二人は去ろうとする。
その時——
「……だが。」
ラフリの声。
足が止まる。
振り向く。
ラフリは、静かに続ける。
「俺となら——」
一歩、前へ。
「救える。」
空気が変わる。
レオンハルトの目が開く。
セラフィンが微笑む。
「……やはり、そう来ますか。」
ルナが顔を上げる。
ラフリは言う。
「鍵を開けろ。」
即答。
レオンハルトが笑う。
「最初からそのつもりだ。」
ガチャッ——
鉄格子が開く。
解放。
その瞬間——
空気が変わる。
「行くぞ。」
ラフリ。
「はい。」
ルナ。
迷いはない。
二人は歩き出す。
甲板。
混乱の中。
「全員、聞け!!」
レオンハルトの声が響く。
「防衛ラインを構築!前衛と後衛に分かれろ!!」
セラフィンが続ける。
「無駄な動きをするな。連携を優先しろ。」
崩れていた統制が——戻り始める。
その中心で。
ラフリとルナ。
「アリア様を——」
ルナ。
「取り戻す。」
ラフリ。
視線が交わる。
完全な一致。
次の瞬間——
ドンッ!!
二人の姿が消える。
一直線に、敵の中枢へ。
風が吹く。
血の匂い。
崩れかけた船の上で——
ラフリが静かに呟く。
「……さあ。」
その瞳は、
静かに狂っている。
ルナが隣に立つ。
呼吸を整えながら。
そして——
「今からだ。」
一歩踏み出す。
「狂気の上で——踊る。」
戦場が、応えるように震える。
その先にいるのは——
ただ一人。
守るべき存在。
アリア。




