第42話『標的と、届かない手』
分かっていた。
最初から——
狙われているのは、
自分だと。
(……来る。)
アリアは、静かに息を吐いた。
ゴォォォ……
重い圧。
空気が沈む。
黒い外套の男。
一歩、
また一歩と近づく。
周囲の戦闘音が、
遠くなる。
(……違う。)
ただの敵じゃない。
“核”。
そう直感する。
「退け。」
低く、響く声。
その一言で——
周囲の敵が、
一斉に道を開ける。
(統率……?)
完全に、
支配されている。
「対象、捕獲。」
男の視線が——
アリアに固定される。
(……来た。)
その瞬間。
「来るな。」
ラフリが前に出る。
完全に、
遮る位置。
「——邪魔だ。」
男が手を上げる。
黒い魔力が集まる。
(速い……!)
「右から来る!」
アリアが叫ぶ。
ラフリが動く。
だが——
その瞬間。
ガンッ!!
背後からの衝撃。
(……っ!?)
ラフリの動きが、
止まる。
「な……」
振り向く。
そこにいたのは——
学院の生徒。
数人。
ラフリを押さえつけている。
(……また!?)
「離せ。」
低い声。
だが——
「動くな!」
「今動いたら——!」
叫び声。
恐怖に満ちた顔。
だがその目は——
(……違う。)
虚ろ。
操られている。
完全に。
「邪魔だ。」
ラフリの声が、
少し低くなる。
だが——
動けない。
その一瞬の隙。
「捕獲開始。」
男が消える。
(速——)
気づいた時には、
目の前。
「——っ!!」
腕を掴まれる。
強く。
逃げられない。
「アリア様!!」
ルナの叫び。
すぐに動く。
だが——
ズバッ!!
地面が裂ける。
黒い刃。
ルナの進行を止める。
「近づくな。」
冷たい声。
(……分断。)
完全に。
ルナが歯を食いしばる。
「離しなさい!!」
踏み込もうとする。
だが——
ガシッ!!
腕を掴まれる。
別の生徒。
「やめろ!!」
「今行ったら殺される!!」
必死な声。
だが——
「放して!!」
ルナが振り払おうとする。
涙混じりの声。
その瞬間——
パァン!!
乾いた音。
(……え。)
ルナの顔が、
横に弾かれる。
頬が赤くなる。
叩かれた。
味方に。
「落ち着け!!」
「全員死ぬぞ!!」
叫び。
正論。
だが——
(……最低。)
アリアの胸が、
強く締まる。
ルナは、
その場に止まる。
だが——
震えている。
怒りで。
悔しさで。
その全てで。
(……ごめん。)
小さく、
心の中で呟く。
その間にも——
ズルッ……
体が引かれる。
敵の元へ。
完全に、
支配下。
ラフリはまだ抑えられている。
動けない。
その視線だけが——
こちらを見ている。
鋭く。
静かに。
(……来ない。)
違う。
(来れない。)
それが分かる。
だからこそ——
苦しい。
「人質、確保。」
男が言う。
アリアを、
前へと押し出す。
完全に、
盾。
「これで——」
「動けない。」
冷たい笑み。
(……最悪ね。)
完全に、
詰みの形。
ルナは動けない。
ラフリも動けない。
周囲の生徒たちも——
止まっている。
「一時間だ。」
男が告げる。
静かに。
だが確実に。
「その後——」
わずかに、
口元が歪む。
「全員処分する。」
(……やっぱり。)
交渉じゃない。
ただの、
猶予。
死までの。
沈黙。
誰も動けない。
その中で——
アリアだけが、
ゆっくりと目を閉じる。
(……落ち着いて。)
(まだ終わってない。)
(ここからよ。)
風が吹く。
血の匂いを、
運びながら。
誰も動けない。
誰も、
手を出せない。
だが——
完全な絶望ではない。
まだ、
時間がある。
一時間。
短すぎる。
だが——
「……考えなさい。」
アリアが小さく呟く。
誰にも聞こえない声で。
「私。」
その瞳は、
静かに燃えていた。




