第41話『崩れる陣形と、見えない裏切り』
壊れる。
ゆっくりと——
確実に。
守られていたはずの秩序が、
崩れていく。
(……早い。)
アリアは息を呑んだ。
ドンッ!!
爆音。
甲板の一部が吹き飛ぶ。
「きゃああああ!!」
悲鳴。
混乱。
生徒たちが散り散りになる。
(ダメ……統制が取れてない。)
「落ち着け!!」
レオンハルトの声が響く。
「隊列を組め!前衛と後衛に分かれろ!!」
だが——
完全には届かない。
実戦経験のない生徒たち。
恐怖が勝っている。
その隙を——
敵は逃さない。
「排除。」
淡々とした声。
黒いローブの一人が手を上げる。
紫の魔法陣。
(……速い!)
「左、詠唱完了する!」
アリアが叫ぶ。
ラフリが即座に動く。
一歩。
いや——
消えたように見えた。
次の瞬間。
バンッ!!
敵が吹き飛ぶ。
詠唱は中断。
(……やっぱり。)
強い。
圧倒的に。
だが——
「数が……!」
ルナが低く言う。
すでに囲まれ始めている。
(多すぎる。)
想定以上。
その時——
「後方、崩れてます!」
誰かの声。
振り向く。
後衛。
崩壊寸前。
魔術師たちが、
押し込まれている。
(まずい……。)
「……おかしい。」
セラフィンの声。
静かに。
だが確信を持って。
「侵入経路が多すぎる。」
(……?)
確かに。
普通なら——
一方向からの強襲。
だが今は——
(複数箇所から……?)
違和感が、
形になる。
その瞬間。
ガンッ!!
背後からの衝撃。
(……っ!?)
振り向く。
そこにいたのは——
「……なんで。」
学院の生徒。
剣を構えている。
こちらに。
「どけ。」
感情のない声。
(……嘘でしょ。)
「正気に戻りなさい!」
ルナが叫ぶ。
だが——
反応がない。
目が、
虚ろ。
(……操られてる。)
確信。
その生徒が斬りかかる。
キンッ!!
ルナが受け止める。
「くっ……!」
力が強い。
異常なほどに。
「下がれ。」
ラフリが間に入る。
一瞬で。
そのまま——
ガッ!!
首元を掴む。
持ち上げる。
「……邪魔だ。」
低く言う。
そして——
ドンッ!!
気絶させて地面に叩きつける。
(容赦ない……。)
だが——
正しい。
「……内部にいるな。」
ラフリが呟く。
「誘導してる奴が。」
(……やっぱり。)
完全に罠。
その時。
「アリア様!」
ルナの声。
振り向く。
敵が一人、
すぐそこまで迫っている。
(近い——!)
反応が遅れる。
だが——
ズバッ!!
血飛沫。
敵が倒れる。
目の前で。
(……え。)
視線の先。
レオンハルト。
剣を振り切った状態。
「気を抜くな。」
短く言う。
(……助かった。)
だが——
安堵する暇はない。
「……来る。」
ラフリの声。
低い。
危険を告げる声。
その瞬間——
ゴォォォォ……
重い音。
空気が歪む。
敵の後方。
一人。
明らかに、
格が違う存在。
黒い外套。
異様な圧。
(……あれ。)
本能が警告する。
(“違う”。)
ただの兵じゃない。
その存在が、
ゆっくりと歩き出す。
「……確認。」
低く響く声。
「対象——アリア。」
(来た……。)
完全に。
狙われている。
ルナが一歩前に出る。
ラフリも同時に動く。
完全に、
同じタイミングで。
(……この二人。)
息が合いすぎている。
だが——
その圧は、
それすら飲み込む。
(……強い。)
間違いなく、
ここまでの敵とは別格。
戦場。
完全に変わった。
ただの襲撃ではない。
計画された侵略。
内部からの崩壊。
そして——
明確な標的。
アリア。
(……来る。)
心臓が、
強く鳴る。
だが——
目は逸らさない。
逃げない。
「……やるわよ。」
小さく呟く。
その声は、
もう震えていなかった。




