第39話『壊れる覚悟と、本当の私』
静かだ。
あまりにも、静かすぎる。
三人だけの空間。
さっきまでの喧騒が、
嘘のように遠い。
(……言わないと。)
アリアは拳を握った。
震えている。
(……怖い。)
初めて。
本当に、怖い。
「……二人とも。」
声を出す。
思ったより、
震えていない。
だが——
内側は、
ぐちゃぐちゃだ。
ルナがすぐに反応する。
「はい。」
優しい声。
変わらない。
それが逆に——
怖い。
ラフリは何も言わない。
ただ、
じっと見ている。
逃げ場はない。
(……もう、戻れない。)
息を吸う。
そして——
吐く。
覚悟を決める。
「……聞いて。」
沈黙。
空気が張り詰める。
「私は——」
喉が詰まる。
一瞬、
言葉が止まる。
(……ダメ。)
(ここで止まったら——)
「この世界の人間じゃない。」
言った。
はっきりと。
空気が止まる。
完全に。
ルナの目が、
わずかに開く。
ラフリは——
動かない。
続ける。
止まったら、
終わる。
「ここは……ゲームで。」
一歩踏み込む。
「私は、その中身を知ってる。」
沈黙。
長い沈黙。
何も返ってこない。
(……やっぱり。)
胸が、
冷える。
(気持ち悪いって思われた。)
(当然よね。)
少しだけ、
視線を落とす。
「……全部、知ってるの。」
小さく言う。
「誰が何をするかも……」
「どう終わるかも。」
声が、
少しだけ震える。
「私がどうなるかも。」
(……言った。)
これで全部。
もう隠すものはない。
沈黙。
重い。
苦しい。
(……やっぱり。)
その時。
「それより。」
ルナの声。
顔を上げる。
「アリア様は——」
一歩近づく。
「無事なんですか?」
(……は?)
思考が止まる。
「え……?」
ルナは真っ直ぐ見る。
ぶれない目。
「さっきの……危なかったです。」
「怪我、してませんか?」
(……違う。)
(そこじゃないでしょ。)
でも——
それがルナ。
変わらない。
「……してないわ。」
小さく答える。
ルナは、
ほっと息を吐く。
本当に、
安心した顔。
(……何それ。)
胸が、
締まる。
その時。
「……やっぱりか。」
低い声。
ラフリ。
(……。)
ゆっくりと見る。
「……知ってたの?」
静かに問う。
ラフリは肩をすくめる。
「全部じゃない。」
「だが——」
少しだけ目を細める。
「普通じゃないのは分かってた。」
(……やっぱり。)
納得。
悔しいくらいに。
「だから言っただろ。」
一歩近づく。
「選ばされるな、と。」
(……あの時の。)
繋がる。
全部。
沈黙。
そして——
アリアは、
ゆっくりと目を閉じる。
「……気持ち悪いでしょ。」
ぽつり。
落ちるような声。
「全部知ってるなんて。」
「人の人生を……」
「ゲームみたいに見てた。」
(……最低。)
自分でも分かっている。
だから——
拒絶されても、
仕方ない。
その瞬間。
ぎゅっ。
手を掴まれる。
(……え。)
目を開ける。
ルナ。
すぐ目の前。
「関係ありません。」
即答。
迷いなし。
「アリア様は、アリア様です。」
真っ直ぐ。
一切ぶれない。
「どこから来ても。」
「何を知ってても。」
一歩近づく。
「私は——」
少しだけ、
声が柔らかくなる。
「アリア様が好きです。」
(……っ。)
心臓が、
跳ねる。
強く。
(やめてよ……)
(そういうの……)
逃げられない。
完全に。
その横で——
「……随分と甘いな。」
ラフリの声。
だが——
否定はしない。
むしろ。
「だが——」
視線を向ける。
アリアへ。
「悪くない。」
(……何それ。)
少しだけ、
呆れる。
でも——
拒絶されてない。
それが、
分かる。
沈黙。
だが——
さっきとは違う。
重くない。
むしろ——
繋がっている。
三人が。
「……これで分かったでしょ。」
アリアが小さく言う。
「私は——」
「安全じゃない。」
「このままだと——」
「死ぬ。」
はっきりと。
現実として。
ルナの手が、
強くなる。
「死なせません。」
即答。
ラフリは静かに言う。
「なら——」
一歩踏み出す。
「壊すしかないな。」
(……壊す。)
その言葉が、
静かに響く。
アリアはゆっくりと目を閉じる。
そして——
開く。
迷いは、
もうない。
「……ええ。」
小さく。
だが確かに。
「壊すわ。」




