【第三話】 『交差する視線』
朝の光が、静かに学園を照らしていた。
アストラリス学園。
今日もまた、多くの貴族と運命が交差する場所。
そして――
私にとっては、
破滅へと続く舞台でもある。
廊下を歩くたびに、視線が突き刺さる。
「……また来た」
「近づかない方がいいわ」
「何をされるか分からないもの」
小さな声。
けれど、確かに届く悪意。
(……慣れないと)
表情を変えず、ただ前を見る。
今はまだ、何もしていない。
それでも――“アリア”という存在だけで、嫌われている。
(だったら、なおさら)
(余計なことはしない)
静かに、距離を取る。
それが今の最善。
その時だった。
廊下の向こうから、
一人の少年が歩いてくる。
ざわめきが、一瞬で消える。
空気が変わる。
自然と、人が道を開けていく。
――第一王子。
ラフリ・アステリオン。
(……来た)
心臓が、わずかに跳ねる。
ゲームでは、ほとんど語られなかった存在。
最後のルート。
未クリアのまま終わった――唯一の人物。
距離が、ゆっくりと縮まる。
一歩。
また一歩。
そして――
すれ違う、その瞬間。
視線が、重なった。
何も言わない。
ただ、見られる。
深く、静かに。
まるで――
何かを見透かされているような感覚。
(……何、今の)
一瞬だった。
けれど、確かに“違和感”が残る。
振り返ることは、しない。
ただ、そのまま歩き続けた。
(……関わらない方がいい)
本能的に、そう思った。
中庭。
そこには、一人の少女が立っていた。
柔らかな光を受けて、微笑んでいる。
周囲の空気が、どこか優しい。
(……あれが)
この世界の“主人公”。
すべてのルートの中心にいる存在。
――ルナ。
まだ誰とも深く関わっていない、物語の始まりの姿。
(近づかない)
(絶対に)
彼女に関わった瞬間、
すべてのイベントが動き出す。
それはつまり――
破滅へのカウントダウン。
視線だけが、一瞬交わる。
ルナは、不思議そうにこちらを見る。
私は――
何も言わず、目を逸らした。
そして。
少し離れた場所。
ラフリ・アステリオンが、静かに立っていた。
誰とも話さず。
ただ、景色を見ているようで――
どこか、違うものを見ているようにも見える。
三人の距離は、交わらない。
言葉もない。
ただ――
同じ空間にいるだけ。
それだけなのに。
胸の奥が、わずかにざわつく。
理由は分からない。
ただ一つ、確かなことは――
(……これは、ゲームじゃない)
同じはずなのに。
何かが、違っている。
静かに、確実に。
運命は――
ずれ始めていた。




