第38話『歪んだイベントと、狙われた存在』
おかしい。
明らかに、
おかしい。
(……早すぎる。)
アリアは足を止めた。
学院の廊下。
昼休み。
何も変わらない景色。
なのに——
胸がざわつく。
(この感じ……)
知っている。
嫌になるほど。
(イベントの前兆。)
だが——
(こんなタイミングじゃない。)
本来なら、
まだ来ないはずのもの。
なのに。
(……来てる。)
「アリア様?」
隣。
ルナ。
心配そうな顔。
(気づいてない……当然よね。)
「なんでもないわ。」
短く返す。
だがその瞬間——
ギシッ……
小さな音。
(……上?)
視線を上げる。
天井。
シャンデリア。
(……は?)
一瞬。
ほんの一瞬、
理解が遅れる。
ヒビ。
そして——
バキッ!!
(落ちる——!!)
「アリア様!!」
ルナが叫ぶ。
身体が動かない。
完全に、
反応が遅れた。
(間に合わない——)
その瞬間。
ガンッ!!
衝撃。
視界が揺れる。
誰かに引かれた。
強く。
倒れ込む。
床。
息が詰まる。
その直後——
ドゴォォォン!!
シャンデリアが落ちる。
さっきまでいた場所に。
粉々に砕ける。
沈黙。
(……今の。)
遅れて、
理解する。
(死んでた。)
確実に。
「……無事か。」
低い声。
(……この声。)
顔を上げる。
ラフリ。
自分の腕を掴んでいる。
引き寄せたのは——
彼。
(……また。)
ルナもすぐ近くにいる。
息を荒くして。
「アリア様……!」
すぐに抱き寄せる。
今度は、
迷いなく。
(……近い。)
でも——
振りほどかない。
できない。
「怪我は……!?」
必死な声。
「ないわ。」
短く答える。
だが——
声が、少し震える。
(……危なかった。)
沈黙。
周囲がざわつき始める。
だが——
アリアの耳には入らない。
ただ一つ。
頭の中で、
確信が形になる。
(……違う。)
(これは——)
ゆっくりと、
顔を上げる。
砕けたシャンデリア。
位置。
タイミング。
すべてが、
完璧すぎる。
(イベントじゃない。)
(“狙われてる”。)
背筋が冷える。
その時。
「……露骨だな。」
ラフリが呟く。
(……やっぱり。)
その一言で、
確信する。
この男は、
気づいている。
「どういう意味?」
アリアが問う。
ラフリは壊れた天井を見る。
「普通の事故じゃない。」
(言い切った。)
ルナが顔を上げる。
「それは……」
言葉が詰まる。
信じたくない。
だが——
状況が否定しない。
その時。
遠く。
廊下の角。
一瞬だけ、
誰かの影。
(……あれ。)
違和感。
ほんの一瞬。
こちらを見て——
消えた。
(今の……)
胸がざわつく。
(見てた?)
(……誰。)
ラフリの視線も、
同じ方向へ向く。
だが何も言わない。
ただ——
わずかに目を細める。
(……気づいてる。)
沈黙。
重い沈黙。
そして——
「場所を変える。」
ラフリが言う。
短く。
命令のように。
「ここはまずい。」
(……同感。)
ルナが頷く。
「はい。」
そのまま、
アリアの手を取る。
しっかりと。
離さないように。
(……ほんとに。)
小さく息を吐く。
だが——
その手を、
振り払わない。
振り払えない。
三人はその場を離れる。
だが——
アリアの中では、
すでに結論が出ていた。
(……始まった。)
(これはもう——)
(“ゲーム”じゃない。)
(……殺しに来てる。)
静かな廊下。
人気のない場所。
三人だけ。
沈黙。
重い沈黙。
誰もすぐには話さない。
だが——
もう誤魔化せない。
(……言うしかない。)
アリアはゆっくりと息を吸う。
手が、
わずかに震える。
(ここで隠したら——)
(次は、死ぬ。)
目を閉じる。
そして——
開く。
覚悟を決める。
「……二人とも。」
静かに呼ぶ。
ルナとラフリが見る。
真っ直ぐに。
逃げ場はない。
(……言うわ。)
その一歩手前で——
言葉が止まる。
だが次の瞬間。
アリアの瞳は、
完全に決まっていた。




