【第二話】 『悪役令嬢の現実と、生き残るための選択』
冷たい視線が、背中に突き刺さる。
それは気のせいじゃない。
確かに――
向けられている悪意だった。
アストラリス学園。
その中を歩くだけで、周囲の空気が変わる。
ひそひそとした声。
隠そうともしない視線。
「……あれが」
「アストレリア公爵家の……」
「悪役令嬢」
その言葉は、小さくてもはっきりと聞こえた。
(……やっぱり、こうなるよね)
心の中で、ため息をつく。
ゲームの中でも同じだった。
アリア・アストレリア。
高慢で、冷酷で、誰からも嫌われる存在。
そして最終的には――
破滅する。
屋敷に戻っても、それは変わらなかった。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
頭を下げる使用人たち。
けれど、その態度はどこか硬い。
距離を置かれているのが、はっきり分かる。
(……信頼されてない)
それも当然だ。
今までの“アリア”は、
気分で怒鳴り
理不尽に叱責し
使用人を道具のように扱っていた
そんな人物だった。
「……紅茶を」
短くそう言うと、メイドが一瞬だけ肩を揺らす。
「は、はい……!」
明らかに怯えている。
(……最悪のスタート)
夜。
一人、部屋の中で考える。
「……どうする?」
このままじゃ、確実にバッドエンドだ。
処刑、追放、没落。
どのルートでも、結末は変わらない。
でも――
(私は、全部知ってる)
十一のルート。
その流れ。
分岐。
イベント。
すべてを、覚えている。
ならば――
(回避できるはず)
机の上に手を置く。
そして、静かに整理する。
ー アリアの生存戦略
① 無駄に敵を作らない
→ 高圧的な態度をやめる
② 主要イベントを回避または改変
→ ヒロインへの嫌がらせをしない
③ 王子たちとの関係を悪化させない
→ 必要以上に関わらない
④ 情報を集める
→ 学園・王子・貴族関係
(……完璧、とは言えないけど)
(やらないよりはマシ)
だけど。
一つだけ、不安が残る。
(……スコルピオのルート)
ラフリ・アステリオン。
あのルートだけは――未クリア。
情報が、足りない。
(何が起きるのか、分からない……)
それが、唯一の“未知”。
そして――最大の脅威。
窓の外には、静かな夜空。
無数の星が、瞬いている。
まるで――
この世界そのものが、何かを見ているように。
(……絶対に、生き残る)
小さく、でも確かに。
そう心に誓った。
悪役令嬢としての運命を――
塗り替えるために。




