第27話『静寂の余韻と、残された視線』
静寂。
あれほど激しかった戦場が、
嘘のように止まっていた。
風の音だけが、
わずかに響く。
誰も、動かない。
誰も、声を出さない。
ただ一つ——
“結果”だけが、そこにあった。
王子たちが、ゆっくりと視線を下げる。
一人。
また一人。
武器を下ろし、
魔力を収める。
そして——
ラフリの前で、
静かに頭を下げた。
「……申し訳ありません、兄上。」
震えた声。
その一言に、
全てが込められていた。
ラフリは何も言わない。
ただ、見下ろす。
その沈黙が、
何よりも重かった。
(……完全に、終わったわね。)
アリアは静かに息を吐く。
隣には——
ルナ。
何も言わず、
ただそこに立っている。
(……ほんとに。)
(最後まで、離れなかった。)
ほんの少しだけ、
視線を向ける。
ルナも同時に、こちらを見る。
一瞬。
視線が交わる。
静かに。
だが確かに——
火花が散る。
「……お疲れ様です、アリア様。」
穏やかな声。
だがその奥にあるのは——
譲らない意志。
「……あなたも。」
短く返す。
それだけで、
十分だった。
(……ほんと、やりにくいわね。)
だが——
不思議と嫌ではない。
その時——
「……ふん。」
小さな声。
ラフリ。
ゆっくりと、王子たちへ歩み寄る。
全員が、
さらに背筋を伸ばす。
空気が張り詰める。
そして——
ラフリは、薄く笑った。
「王都に戻れ。」
静かに言う。
「——話は、そこでだ。」
王子たちの顔が強張る。
「は、はい……!」
その意味を、
全員が理解していた。
(……終わってないのね、あっちで。)
アリアが小さく呟く。
その時——
ラフリが振り返る。
視線が、
アリアへ向く。
(……なによ。)
一瞬、沈黙。
そして——
ゆっくりと近づいてくる。
一歩。
また一歩。
距離が、縮まる。
(ちょっと近いんだけど。)
止まる。
アリアの前で。
そして——
ポンッ
軽く、頭に手を置く。
「よくやった。」
短く、それだけ。
(……は?)
思考が止まる。
次の瞬間、
手はもう離れていた。
ラフリはそのまま歩き出す。
すれ違いざまに、
ルナへ視線を向ける。
ほんの一瞬。
そして——
口元を、わずかに歪めた。
(……今の何?)
ルナの目が細くなる。
だが何も言わない。
ただ——
その背中を見送る。
ラフリは振り返らない。
そのまま、
闘技場を後にする。
その背中は——
どこまでも、
静かで。
どこまでも、
圧倒的だった。
「……変な人ですね。」
ルナがぽつりと呟く。
(同感よ。)
だが——
アリアは少しだけ、
視線を落とす。
(……でも。)
頭に残る、
さっきの感触。
(……なんなのよ、あれ。)
胸の奥が、
ほんの少しだけ揺れる。
その時——
「ま、待ちなさい……!」
震えた声。
偽ヒロイン。
地面に膝をつきながら、
こちらを睨んでいる。
だが——
その目には、
もはや余裕はなかった。
「どうして……」
「どうして上手くいかないの……!」
(……壊れ始めたわね。)
アリアは静かに見下ろす。
「……台本通りじゃないからでしょう。」
冷たく言い放つ。
偽ヒロインの顔が歪む。
「そんなもの——!」
「まだ、終わってない……!」
その声は、
もはや自分に言い聞かせるようだった。
(ええ、終わってないわ。)
(でも——)
(あなたの“ゲーム”は、もう崩れてる。)
視線を外す。
興味は、もうない。
闘技場には、
まだ余韻が残っていた。
誰もが理解している。
この一戦で——
何かが、
完全に変わったと。
アリアは空を見上げる。
淡く残る、光の痕。
(……終わった。)
そして——
(ここから、始まる。)
静かに息を吐く。
隣には、ルナ。
だが——
その関係も、
もう元には戻らない。
少しだけ視線を向ける。
ルナも、こちらを見る。
言葉はない。
だが——
その距離は、
ほんの少しだけ近くて。
そして同時に、
少しだけ遠かった。




