第26話『星葬焔華と、兄の教え』
静寂。
ついさっきまでの轟音が、
嘘のように消えていた。
誰も動かない。
誰も、息をすることすら忘れていた。
その中心にいるのは——
ラフリ。
(……空気が変わった。)
アリアは直感する。
これはもう、
“戦い”ではない。
(これは——)
(支配。)
ラフリが、一歩前へ出る。
ゆっくりと。
だが、その一歩だけで——
王子たちが後ずさる。
「……兄上……」
一人が呟く。
その声は震えていた。
「やめてください……」
だがラフリは止まらない。
静かに、空を見上げる。
その仕草に——
全員が“気づく”。
(……あれは。)
ルナが息を呑む。
(まさか……)
アリアの脳裏に、
一つの記憶が蘇る。
幼い頃。
夜空に咲いた——
“あの光”。
ラフリが、手を上げる。
「……思い出せ。」
低い声。
だが、はっきりと響く。
「お前たちに、何を教えた。」
沈黙。
王子たちの目が揺れる。
理性と命令の狭間で。
偽ヒロインが叫ぶ。
「惑わされないで!」
「ただの脅しよ!」
だが——
誰も、動かない。
ラフリは続ける。
「力は、何のために使う。」
一人が震えながら答える。
「……守るため、です……」
ラフリは小さく頷く。
「なら——」
その手を、空へ向ける。
「今のお前たちは、何だ。」
答えはない。
ただ、沈黙。
その瞬間——
魔力が、溢れ出す。
——ゾワッ
観客席がざわめく。
「な、なんだこの魔力……!」
「息が……重い……!」
空気が震える。
重く、濃く、圧倒的に。
ラフリが呟く。
「——来い。」
次の瞬間——
空が、裂けた。
光。
無数の光。
赤、青、金、紫。
あらゆる属性が絡み合い、
一つの巨大な光となる。
それは——
夜空に咲く、
“花”。
《星葬焔華》
(……やっぱり。)
アリアが息を呑む。
(あの時の——)
ラフリの声が響く。
「覚えているだろ。」
王子たちへ。
「逆らえば——」
ほんのわずか、
口元が歪む。
「打ち上げると、言ったはずだ。」
王子たちの顔が青ざめる。
「ま、まさか……」
「兄上……本気で……?」
偽ヒロインが叫ぶ。
「そんなもの、ただの演出——」
その言葉は、最後まで続かなかった。
——ドンッ!!!
光が炸裂する。
夜空に広がる、
巨大な“花火”。
だが——
それはただ美しいだけではない。
圧。
熱。
そして——
“恐怖”。
全てが、降り注ぐ。
「っ……!!」
王子たちが動きを止める。
完全に。
足がすくむ。
呼吸が乱れる。
「……あの時と、同じだ……」
一人が呟く。
「空に……放り投げられて……」
「落ちると思った……」
「死ぬかと……」
記憶が蘇る。
幼い頃の恐怖。
だが同時に——
その後の、優しい言葉。
ラフリが静かに言う。
「思い出したか。」
王子たちの目に、
理性が戻る。
濁りが消えていく。
偽ヒロインが歯を食いしばる。
「っ……何を……!」
「命令に従いなさい!」
だが——
誰も、動かない。
一人が、前へ出る。
「……もう、やめましょう。」
震えた声。
だが、確かに。
「これは……違う。」
次々と、
武器が下がる。
魔法が消える。
完全に、崩壊。
(……止めた。)
アリアが息を呑む。
(力じゃなくて——)
(“記憶”で。)
ラフリは、ゆっくりと視線を下げる。
その目は、もう冷たくない。
「分かればいい。」
それだけ言う。
そして——
偽ヒロインを見る。
静かに。
だが、その圧は圧倒的だった。
「次は、お前だ。」
低く、告げる。
偽ヒロインが一歩下がる。
初めて。
明確な“恐怖”を見せる。
「……っ。」
(崩れた。)
アリアが確信する。
(完全に、流れが変わった。)
夜空には、
まだ光が残っていた。
ゆっくりと消えていく、
星のような残滓。
静寂。
戦いは、終わりに近づいている。
アリアは、ラフリを見る。
(……この人。)
(ただ強いだけじゃない。)
(ちゃんと、“兄”だ。)
ルナも同じように、
その背中を見ていた。
誰も、言葉を発さない。
だが——
全員が理解していた。
この瞬間。
流れは、完全に変わったと。




