第24話『開戦の合図と、崩れ始める均衡』
翌日。
決闘場。
広大な石造りの円形闘技場。
観客席は、すでに埋め尽くされていた。
貴族。
生徒。
そして——
王族。
ざわめきが止まらない。
「三対十一だって……?」
「正気じゃない……」
「でも……相手はあの三人だぞ……?」
期待と不安が入り混じる。
その中心——
フィールドに立つ三つの影。
アリア。
ルナ。
ラフリ。
(……来たわね。)
アリアは静かに息を吐く。
心臓はうるさい。
だが——
目は、冷えていた。
「——位置につけ。」
審判の声が響く。
対面。
11人。
10人の王子たちと——
偽ヒロイン。
その中心で、
彼女は微笑んでいた。
「逃げなかったのね。」
軽く首を傾げる。
「褒めて差し上げますわ。」
(ほんとにイラつくわね。)
アリアは無視する。
「始めるぞ。」
ラフリの声。
短く、それだけ。
その一言で、
空気が張り詰める。
ルナが小さく頷く。
「……はい。」
アリアも息を整える。
(作戦通り。)
(分断する。)
審判が手を上げる。
「——開始!」
その瞬間——
地面が弾けた。
「行くぞ。」
ラフリが一歩踏み込む。
次の瞬間には——
消えていた。
「なっ——!?」
王子の一人が反応する間もなく——
——ガンッ!!
鈍い衝撃音。
一人が吹き飛ぶ。
観客席がざわめく。
「速すぎる……!」
「見えなかったぞ……!」
(……やっぱり。)
アリアが目を細める。
(この人、やっぱり規格外。)
「散開!」
別の王子が叫ぶ。
即座に陣形が広がる。
(判断が早い。)
だが——
「遅い。」
ラフリの声。
背後。
「——っ!?」
二人目が崩れる。
(囮どころじゃないわね。)
(完全に暴れてる。)
その間に——
「今です!」
ルナの声。
光が広がる。
「——展開!」
防御結界。
透明な層が、
二人を包む。
同時に——
「撃て!」
王子たちの魔法が一斉に放たれる。
炎。
氷。
雷。
多重攻撃。
——ドォンッ!!
衝突。
結界が軋む。
「……っ!」
ルナの顔が歪む。
「耐えられますか!」
「問題ありません!」
(嘘でしょ、これ全部防ぐの!?)
アリアが素早く周囲を見る。
(今よ。)
「右側、三人!」
即座に指示。
ルナが頷く。
「はい!」
結界を一瞬だけ解く。
「——今!」
その瞬間——
アリアが踏み込む。
「遅いですわ。」
低く呟く。
「なっ——」
反応する前に——
——バシッ!
魔法陣を蹴り飛ばす。
術式が崩壊。
「崩した!?」
観客がざわめく。
「魔法陣を直接……!?」
(構造が甘いのよ。)
(テンプレ通りすぎる。)
もう一歩踏み込む。
「二人目。」
——ドンッ!
衝撃。
バランスを崩す。
「ルナ!」
「はい!」
すぐに光が走る。
拘束魔法。
「くっ……!」
一人を封じる。
(いい連携。)
だが——
「甘いですわ。」
偽ヒロイン。
その声と同時に——
地面が歪む。
「っ!?」
アリアの足元に、
黒い魔法陣。
(速い!?)
——バンッ!!
衝撃。
吹き飛ばされる。
「アリア様!」
ルナが叫ぶ。
「大丈夫ですわ……!」
体勢を立て直す。
だが——
(今の……)
(完全に“知ってた動き”)
偽ヒロインが笑う。
「残念でしたわね。」
「その程度の対応では——」
「勝てませんわよ?」
(やっぱり……)
(こいつ、“プレイヤー”だ。)
その時——
「余所見するな。」
低い声。
ラフリ。
次の瞬間——
——ドォン!!
衝撃波。
偽ヒロインの足元が崩れる。
「っ……!」
初めて表情が歪む。
(……当てた。)
ラフリは静かに立つ。
その視線は冷たい。
「……調子に乗るな。」
短く言う。
空気が変わる。
完全に。
戦場は、すでに混沌としていた。
三人。
十一人。
数の差は、まだ埋まらない。
だが——
均衡は、
確実に崩れ始めていた。
(……いける。)
アリアは思う。
(まだ、終わってない。)
ルナが隣に立つ。
ラフリが前にいる。
(なら——)
「まだ終わりませんわ。」
小さく呟く。
その瞳に、
迷いはなかった。




