第23話『嵐の前の静寂と、それぞれの覚悟』
夜。
宴は、終わりを迎えた。
だが——
静けさは戻らない。
宮廷の外。
冷たい空気の中、
三つの影が並んでいた。
アリア。
ルナ。
ラフリ。
誰も、すぐには口を開かない。
(……やっと、静かになった。)
だがその静けさは、
心を落ち着かせるものではない。
むしろ——
嵐の前の、異様な沈黙。
「……ずいぶんと、派手にやったな。」
ラフリが先に口を開く。
その声音はいつも通りだが、
どこか低い。
「そちらこそ。」
アリアは淡々と返す。
「勝手に参加を決めるなんて、随分と自由ですわね。」
ラフリは軽く肩をすくめる。
「規律を正すのも、長男の役目だ。」
(絶対それだけじゃないでしょ。)
だが、それ以上は追及しない。
その時——
「……本当に、大丈夫ですか?」
ルナの声。
不安が滲んでいる。
「相手は……十一人です。」
(今さらね。)
アリアは小さく息を吐く。
「数の問題ではありませんわ。」
「問題は——」
視線を少しだけ落とす。
「“中身”ですもの。」
(あの偽ヒロイン……)
(確実に“知っている”。)
(イベントも、流れも。)
(つまり——)
(プレイヤー。)
思考が加速する。
(しかも、かなり厄介なタイプ。)
「……厄介だな。」
ラフリが呟く。
まるで同じことを考えていたかのように。
(やっぱりこの人……)
アリアは目を細める。
「あなたも気づいているのね。」
短く言う。
ラフリは否定しない。
「完全に、な。」
その一言で、
確信に変わる。
(やっぱり……同じ“側”)
ルナが不思議そうに二人を見る。
「……何の話ですか?」
(まずい。)
一瞬、思考が止まる。
ラフリが先に口を開く。
「気にするな。」
「単なる戦力分析だ。」
さらっと流す。
(助かった……のかしら。)
ルナは納得していない顔だが、
それ以上は追及しない。
「……それより。」
ルナが一歩前に出る。
「作戦を立てましょう。」
その目は真剣だ。
「正面からぶつかれば、不利です。」
(当たり前よ。)
「分断するしかありません。」
ラフリが続ける。
「十一人を一度に相手にするな。」
「崩せ。」
短く、的確。
(ほんと無駄がないわね、この人。)
「囮が必要です。」
ルナが言う。
「敵の視線を集める役。」
沈黙。
そして——
「……私ですわね。」
アリアが言う。
ルナがすぐに否定する。
「ダメです。」
「アリア様を危険に晒すわけには——」
「ならあなたがやるの?」
静かに返す。
ルナが言葉に詰まる。
「……っ。」
「あなたは防御と支援に回るべきです。」
「それが最も効率的。」
冷静な判断。
だが——
「でも……」
ルナの声が揺れる。
(ほんと、この子は……)
その時——
「俺が囮になる。」
ラフリ。
二人が同時に見る。
「……は?」
「何を言って——」
「一番目立つのは俺だ。」
淡々と続ける。
「王子であり、長男。」
「全員の視線が集まる。」
(……確かに。)
理にかなっている。
だが——
「危険すぎます。」
ルナが即座に言う。
ラフリは気にしない。
「問題ない。」
短く言い切る。
(……この人、本当に。)
少しだけ、苛立つ。
「勝手に決めないでいただけます?」
アリアが言う。
「これは私の戦いですわ。」
ラフリは一瞬だけ沈黙し、
そして——
「違うな。」
静かに言う。
「もう、お前一人の問題じゃない。」
その言葉に、
空気が止まる。
(……っ。)
言い返せない。
ルナも黙る。
「巻き込んだのは俺たちだ。」
「なら、最後まで付き合う。」
シンプルな言葉。
だが重い。
(……ずるい。)
そんな言い方、
断れないじゃない。
小さく息を吐く。
「……好きにしなさい。」
諦めたように言う。
だが——
その声は、
どこか柔らかかった。
ルナがアリアを見る。
そして、静かに頷く。
「……分かりました。」
「でも——」
ラフリを見る。
「無茶はしないでください。」
その言葉には、
わずかな敵意と、
わずかな信頼が混ざっていた。
ラフリは軽く目を細める。
「約束はしない。」
(この人ほんと……)
だが——
不思議と、
不安は少なかった。
夜風が吹く。
静かな空の下。
三人は立っている。
敵は多い。
状況は最悪。
それでも——
(……一人じゃない。)
その事実だけが、
心を支えていた。
ルナが隣にいる。
ラフリが後ろにいる。
(なら——)
ゆっくりと目を閉じる。
(やるしかないわね。)
明日。
全てが決まる。
そして——
全てが変わる。




