第22話『嘲笑の宴と、沈まない誇り』
ざわめきは、消えない。
むしろ——
広がっていく。
宮廷ホールの空気は、
すでに“祝宴”ではなかった。
(……最悪ね。)
アリア・ヴァレンシュタインは、
静かに立っている。
だがその周囲には、
目に見えない壁ができていた。
誰も、近づかない。
いや——
近づけない。
(腫れ物扱い、ってやつね。)
小さく息を吐く。
(まあ、予想通りだけど。)
だが——
問題はそこじゃない。
視線を感じる。
強く、執拗なもの。
(……来る。)
「皆様、ご覧になって?」
高く、よく通る声。
偽ヒロインが、
ゆっくりと歩み出る。
その姿は優雅で、
まるでこの場の“主役”のようだった。
「本日の主役は——こちらですわ。」
手を広げる。
その先にいるのは——
アリア。
一斉に視線が集まる。
ざわめき。
「悪役令嬢……」
「ついにここまで……」
「自業自得だな……」
(……ほんと、好き勝手言うわね。)
だが表情は崩さない。
偽ヒロインは微笑む。
「彼女はこれまで、多くの問題行動を起こしてきました。」
「学院内での横暴。」
「身分差別。」
「そして——」
わざと間を置く。
「“ヒロインへの嫌がらせ”。」
(……は?)
一瞬だけ思考が止まる。
(そんなイベント、あったっけ?)
だが——
周囲は違う。
「やっぱり……」
「最低だな……」
「信じてたのに……」
(え、ちょっと待って。)
(話、盛られてない?)
視線がさらに冷たくなる。
ルナが一歩前に出る。
「その発言には根拠がありますか?」
静かだが、はっきりとした声。
場が一瞬止まる。
偽ヒロインは笑みを崩さない。
「証言がありますわ。」
「複数の生徒から。」
(完全に作られてるわね。)
アリアは小さく息を吐く。
「……証拠は?」
短く問う。
その声は、冷静だった。
偽ヒロインは一瞬だけ目を細める。
「必要かしら?」
「ここにいる皆様が、すでに答えですわ。」
周囲がざわめく。
(……最悪のパターン。)
(“空気”で決めるやつ。)
その時——
「……くだらないな。」
低い声。
ラフリ。
一歩、前へ出る。
「証拠もなく断罪か?」
その一言で、
空気が凍る。
10人の王子たちが動揺する。
「兄上……」
「しかし——」
ラフリは視線を向ける。
「お前たちは、それで納得するのか?」
静かな問い。
だが重い。
何人かの王子が視線を逸らす。
(……揺れてる。)
偽ヒロインの表情が、
わずかに歪む。
「これは正義のためですわ。」
「学院の秩序を守るための——」
「正義?」
ラフリが遮る。
「数で押すのがか?」
沈黙。
空気が張り詰める。
その時——
「……もういいです。」
小さな声。
アリア。
全員の視線が集まる。
「何を言っても、無駄でしょう。」
静かに言う。
「なら——」
一歩、前へ出る。
「決闘で証明しますわ。」
その言葉に、
空気が変わる。
ざわめき。
緊張。
偽ヒロインは笑う。
「ええ、それで結構ですわ。」
「その傲慢さ——」
「叩き潰して差し上げます。」
(……ほんと、性格悪いわね。)
だが——
不思議と、
恐怖はなかった。
隣を見る。
ルナ。
変わらず、そこにいる。
反対側。
ラフリ。
静かに立っている。
(……なんで。)
胸の奥が、少しだけ温かい。
(なんで、こんな状況で——)
(安心してるのよ、私。)
ざわめきが続く。
だが——
もはや視線は変わっていた。
嘲笑だけではない。
興味。
疑念。
期待。
様々な感情が混ざる。
(……見られてる。)
“悪役”としてではなく——
“挑む者”として。
小さく息を吐く。
そして——
覚悟を、さらに固めた。
この戦いは、
ただの決闘ではない。
自分自身を証明する戦い。
(……なら。)
「負けるわけにはいきませんわね。」
小さく呟く。
その瞳には、
確かな光が宿っていた。




