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第18話『壊れた正解と、選ばれた想い』

夕方。

人気のない校舎裏。

沈みかけた夕日が、

長い影を地面に落としている。

風が吹く。

冷たく、静かに。

その中で——

「……どうしてですか。」

かすかに震えた声。

ルナが、そこに立っていた。

その瞳は、

まっすぐにアリアを見つめている。

「どうして……急に、そんな風に……」

(来た。)

逃げ場はない。

(ここで終わらせる。)

アリアはゆっくりと目を閉じる。

胸の奥が、痛む。

(でも——)

(ここで止めないと。)

(全部、壊れる。)

「……距離を取るべきだと判断しました。」

静かに。

できるだけ感情を排して。

「あなたのためにも。」

その言葉に、

ルナの表情がわずかに揺れる。

「……私のため?」

小さな問い。

その声に含まれる不安に、

胸がざわつく。

(見るな。)

(揺れる。)

「ええ。」

視線を逸らしたまま、

淡々と続ける。

「あなたには——本来、進むべき道があります。」

「私ではなく、別の誰かと結ばれるべき存在ですわ。」

沈黙。

ほんの数秒。

それだけなのに——

ひどく長く感じる。

「……違います。」

小さく。

だが、はっきりと。

アリアの思考が止まる。

「私が選びたいのは——」

一歩。

ルナが近づく。

「アリア様です。」

(……っ。)

心臓が強く打つ。

(なんで。)

(どうして、そんな顔で言えるのよ。)

ルナの瞳には、

迷いがない。

ただ、まっすぐで。

ただ、真剣で。

(やめて。)

(それ以上——)

目を閉じる。

そして——

「……あなたは、“そうなるように作られている”だけです。」

言ってしまった。

最悪の言葉。

空気が止まる。

ルナの瞳が、大きく揺れる。

「……え?」

かすれた声。

だが、止まらない。

(止めなきゃ。)

(ここで全部断ち切る。)

「あなたは——決められた流れの中で、“誰かを好きになる役”を与えられているだけ。」

「それがたまたま、今は私になっているだけですわ。」

言葉を重ねるたびに、

胸が締め付けられる。

(痛い。)

(でも——)

(これでいい。)

ルナの手が震える。

「……違う……」

「そんなの……違います……」

声が崩れる。

それでも、

必死に否定する。

「私は、自分で選んで——」

「違いますわ。」

即座に遮る。

(それ以上言わせない。)

「それは錯覚です。」

「あなたの意思ではありません。」

その瞬間——

——ガンッ

鈍い音。

ラフリが、壁に手をついた。

空気が、一変する。

「……そこまでにしろ。」

低く、抑えた声。

だがその奥には、

わずかな怒りが滲んでいた。

(……来た。)

ラフリはゆっくりと視線を向ける。

「お前、自分で何言ってるか分かってるか?」

アリアは目を細める。

「事実を言ったまでですわ。」

強がり。

だが——

「……事実でも、言っていいことと悪いことがある。」

静かに返される。

「それを言えばどうなるか——分かってるだろ。」

視線が、ルナへ向く。

震えている。

明らかに、傷ついている。

(……)

目を逸らす。

「あなたには関係ありませんわ。」

冷たく言い放つ。

だが——

「関係あるな。」

即答。

一歩、近づく。

「お前が壊そうとしてるのは、“流れ”じゃない。」

「“人”だ。」

(……っ。)

胸の奥に刺さる。

「ルナは“誰かを好きになる存在”じゃない。」

「“お前を好きになった人間”だ。」

否定される。

完全に。

(……やめて。)

(それ以上言わないで。)

だが、口が勝手に動く。

「じゃあ——」

「あなたが選べばいいじゃない!」

感情が溢れる。

空気が張り詰める。

ラフリは一瞬だけ目を細め、

そして——

「無理だな。」

即答。

「俺はもう——別の奴に興味がある。」

(……誰?)

一瞬だけ浮かぶ疑問。

だが、それどころではない。

「……なら、どうすればいいんですの。」

声がわずかに震える。

ラフリは、迷いなく言う。

「簡単だ。」

「お前が選べばいい。」

(……は?)

思考が止まる。

「お前がルナを受け入れろ。」

「そんなの——」

「ルール違反ですわ。」

ラフリは小さく息を吐く。

「ルール?」

わずかに笑う。

「最初から壊れてるものに、ルールなんてあるか?」

(……っ。)

その一言。

頭の中で何かが崩れる。

(壊れてる。)

(最初から。)

(じゃあ——)

(私は何を守ろうとしてたの……?)

足元が揺れるような感覚。

息が乱れる。

「……っ。」

一歩、下がる。

耐えられない。

考えられない。

「——アリア様!」

ルナの声。

だが——

もう、向き合えない。

「……っ!」

アリアはそのまま走り出す。

中庭。

夕焼けが、世界を赤く染めている。

息が荒い。

思考がまとまらない。

(わからない。)

(何が正しいのよ……)

「……アリア様!」

ルナが追いつく。

「どうして……あんなこと言うんですか……」

その声は震えている。

それでも、

逃げない。

「……近づかないで。」

小さく言う。

「嫌です。」

即答。

迷いがない。

「私は——アリア様のそばにいたいです。」

(……なんで。)

(どうして、離れないのよ。)

振り向く。

ルナの瞳。

涙が滲んでいる。

それでも——

真っ直ぐ。

「たとえ全部が決められていたとしても——」

「それでも私は、今の気持ちを選びます。」

一歩、近づく。

距離が、なくなる。

「アリア様が誰でもいいんです。」

「どこから来たとしても。」

声が震える。

それでも、

止まらない。

「私は——」

ゆっくりと、

手を伸ばす。

「あなたが好きです。」

触れる。

アリアの手に。

温もり。

その瞬間——

(……終わった。)

何かが、

完全に崩れた。

(もう——)

(元には戻れない。)

目を閉じる。

胸が苦しい。

逃げられない。

「……勝手ですわね。」

小さく呟く。

だが——

その声は、

拒絶ではなかった。

むしろ——

ほんのわずかに。

救われたような、

響きだった。

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