第12話『想定外の解答と、静かな執着』
翌日。
アストラリス学園の実技演習場。
今日は魔法応用のグループ演習。
複数人で協力し、課題を解決する授業だ。
(最悪。)
(グループ系イベントとか一番嫌なんだけど。)
アリアは内心で頭を抱えていた。
(こういうのってだいたい——)
(イベント発生するやつじゃん。)
そして。
その予感は、見事に的中する。
「今回の課題は——」
教師が説明する。
「結界の維持と、魔力供給の最適化だ。」
(あーこれ。)
(知ってる。)
(ゲームでやったやつ。)
(確かここで——)
—⟩ ヒロイン(ルナ)が頑張る
—⟩ 王子が助ける
—⟩ 好感度アップ
(完全にイベント。)
(関わりたくない……)
だが。
現実は甘くない。
「このメンバーで組め。」
指定されたグループ。
・アリア
・ルナ
・そして——
ラフリ
(終わった。)
(完全に詰み。)
(なんでこのメンバーなの!?)
ラフリは何も言わず、その場に立っている。
静かに。
だが確実に——
状況を観察している。
(来たな、イベント再現。)
(ここでどう動くか——)
(見せてもらう。)
演習開始。
結界が展開される。
だが——
「きゃっ…!」
ルナの魔力が少し乱れる。
(はい来た。)
(ここでヒロインが失敗しかけて——)
(王子が助ける。)
(テンプレ。)
だが。
アリアは動いた。
「下がって。」
短く。
即座に。
「えっ——?」
ルナが驚く間もなく。
アリアは結界の構造を一瞬で把握する。
(供給じゃない。)
(構造が歪んでる。)
(このまま魔力を流し続けたら——)
(崩壊する。)
普通なら。
魔力を足して安定させる。
それが“正解”。
だがアリアは違う。
「供給を止めて。」
「えっ!?でもそれだと——」
「いいから。」
迷いがない。
ルナは反射的に従う。
次の瞬間。
アリアは指先で結界に触れ——
「ここ。」
一点を修正する。
微細な歪み。
普通なら気づかないレベル。
(そこか。)
ラフリの目が、鋭くなる。
結界は、安定する。
一瞬で。
「……え?」
ルナが呆然とする。
(本来の攻略じゃない。)
(でも——)
(効率はこっちの方が上。)
ラフリの中で、確信が強まる。
(やっぱりな。)
(こいつ、“知ってる”動きじゃない。)
(“理解してる”動きだ。)
教師が少し驚いた顔で頷く。
「……見事だ。」
周囲がざわつく。
(やば。)
(目立った。)
(またやった……)
アリアは小さくため息をつく。
(これだからイベント嫌いなのよ……)
その時。
「面白いな。」
すぐ後ろ。
低い声。
(近い。)
振り返ると——
ラフリがすぐそこにいた。
(距離近いタイプになってきてない?)
「普通は魔力を足す。」
「でもお前は違う。」
視線が、まっすぐ。
(うわ見てくる。)
(めっちゃ見てくる。)
「なんでああした?」
(来た。)
(質問テスト。)
アリアは一瞬だけ考え——
「無駄だからですわ。」
簡潔に。
「供給で誤魔化すより、原因を直した方が早い。」
ラフリは数秒、黙る。
(……合理的。)
(そして——)
(この世界の“常識”じゃない。)
「ふーん。」
興味なさそうに返す。
だが——
(やっぱり、こいつ。)
(“外”の思考だ。)
ラフリは視線を外す。
だが、その瞬間。
ほんのわずかに——
口元が動いた。
(面白い。)
演習は無事終了。
だが。
見えないところで——
確実に何かが変わった。
ラフリは廊下を歩きながら、考える。
(もし仮説が正しいなら——)
(こいつは“プレイヤー側”。)
(あるいは——)
(それ以上か。)
立ち止まる。
そして、小さく呟く。
「……しばらく観るか。」
それは宣言ではない。
だが確実に——
“関わる理由”が生まれた瞬間だった。




