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第10話『観測者と、理解できない存在』

放課後。

夕方の光が、静かな廊下を長く伸ばしていた。

授業を終えた生徒たちは、それぞれの時間へと散っていく。

そんな中——

アリアは一人、歩いていた。

(……疲れた。)

(精神的に。)

(すごく。)

今日一日だけで、

ルナの距離感バグ

レオンハルトの好感度フラグ

周囲の視線の変化

(情報量多すぎない?)

(処理落ちするんだけど。)

アリアは小さく息を吐く。

そして、ふと立ち止まる。

人気の少ない廊下。

窓から差し込む夕焼け。

静寂。

「……で?」

その一言。

振り返らずに放たれた。

「いつまで、ついてくるつもりですか?」

数秒の沈黙。

そして——

「気づいていたんだ。」

低く、落ち着いた声。

どこか無機質で、感情が読み取れない。

アリアが振り返る。

そこにいたのは——

ラフリ。

蠍座の王子。

(出た。)

(問題児その2。)

(いや、この人は種類が違う。)

(危険度で言えば……こっちの方が上。)

ラフリは壁に軽く寄りかかっている。

その表情は、静か。

何を考えているのか、全くわからない。

「何かご用ですか?」

アリアはいつも通りの声音で問いかける。

冷静に。

隙なく。

ラフリは少しだけ目を細めた。

「別に。」

(は?)

「ただ、見てただけ。」

(え、怖。)

(なにそれストーカー宣言?)

(いや違う、この人そういう軽いタイプじゃない。)

(逆に怖い。)

アリアは眉一つ動かさない。

だが内心では——

(“見てただけ”って何。)

(観察対象にされてるの?私。)

(なんで?バグだから?)

ラフリはゆっくりと姿勢を正す。

そして一歩、近づく。

(距離近——いや遠いけど心理的に近い。)

「お前。」

呼び方が変わった。

敬意も何もない。

ただの確認のような声。

「昨日のあれ。」

「どう思ってる?」

(あれ=婚約破棄イベント。)

(質問が雑すぎる。)

(でも答え方ミスるとまずいやつ。)

アリアは一瞬だけ思考を巡らせ——

「……特に何も。」

短く答えた。

嘘ではない。

だが本音でもない。

ラフリは無言でアリアを見る。

じっと。

深く。

(うわ見てくる。)

(めっちゃ見てくる。)

(視線が重いタイプだこれ。)

「そうか。」

それだけ。

興味なさそうに、視線を外す。

(え、終わり?)

(いや待って、何しに来たのこの人!?)

ラフリは窓の外へ目を向ける。

夕焼けを一瞬だけ見て——

「つまらない答えだな。」

(は?)

「もっと面白いかと思った。」

(何を期待してたの!?)

(リアクション芸人じゃないんだけど!?)

アリアの中で、何かがピキッと鳴る。

「ご期待に沿えず、申し訳ありませんわ。」

笑顔。

完璧な。

だがほんの少しだけ——棘がある。

ラフリはそれを見て、

ほんのわずかに目を細めた。

(……なに今の。)

(見逃さなかった感じ?)

数秒の沈黙。

そしてラフリは背を向ける。

「まあいい。」

興味を失ったように。

あっさりと。

「今は、どうでもいい。」

そのまま歩き出す。

止まらず。

振り返らず。

(……今は?)

(何それ、後でまた来るフラグ?)

(いや来なくていいんだけど。)

(来たら来たで困るんだけど。)

(でも来なかったらそれはそれで……)

(……いや何考えてるの私!?)

廊下には再び静寂が戻る。

夕焼けは、ゆっくりと沈んでいく。

アリアは一人、立ち尽くしていた。

(あの人……)

(何を考えてるのか、全然わからない。)

(でも——)

(“興味がない”って言われると……)

(ちょっとだけ、腹立つのは何で?)

その小さな感情に、

アリア自身はまだ気づかない。

だがそれは確実に——

未来へと繋がる最初の歪みだった。

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