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偽装結婚の私たちは、互いに誰かを演じ合う―代役夫婦が本物になるまで―  作者: 春樹凜


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2.報告



 私とエヴァンは、まずはそれぞれの家に自分たちの意思を伝えた。


 ちょうど社交シーズンで王都に滞在していたエヴァンの両親の元へ挨拶に向かうと、タウンハウスで迎えてくれた二人は穏やかで、初対面の私にも気負いなく接してくれた。

 ベルーナ邸にやってきたエヴァンもまた同様に温かく迎えられ、両親は彼を気に入ってくれた。


 王都に住み、領地を持たない中央貴族のベルーナ家と、この国でも古くからの歴史を持つライネオス家。

 互いに持たないものを補い合える縁だと考えられ、この婚約はすんなり受け入れられた。


 一方で両家への挨拶の前にこのことを私がセレナに伝えると、彼女は目を丸くした。


「ルナがまさかエヴァンと結婚するなんて! もしかしてずっと好きだったの?」

「ええ、実は」

「言ってくれたらよかったのに!」

「……ごめんなさい。なんだか恥ずかしくて」


 私たちの婚約は、学生時代から互いに密かに想い合っていて、あの卒業パーティーの日に気持ちを確かめ合った結果だと周囲には説明していた。


「でも、あのパーティーは本当に驚いたわ。急に二人で手を取って踊り出すんだもの。それも続けて三曲も!」


 弾んだ声でそう言うセレナを前に、胸の奥がちくりと痛む。


 バルコニーでの語らいの後、私とエヴァンは会場に戻り、みんなの視線を浴びながら何曲も踊った。

 婚約するのなら、あの場で私たちの仲を示すのが一番早いと判断したからだ。


 驚いたようにこちらを見つめていたカイエル殿下の表情は、初めて見るものだった。

 それを視界の端に捉えた私は、思わず頬が緩むのを止められなかった。


「だらしない顔してるぞ」


 そう言ったエヴァン自身も、同じように表情を崩していた。

 ちらりと見えたセレナが、口元に手を当て、目を大きく見開いていたからだ。

 彼女の視線を独り占めできていることが、嬉しかったのだろう。


 きっと、誰も気づかなかったと思う。

 踊っている相手を前に、私たちの意識はお互いになかったことに。

 常にカイエル殿下とセレナの視線を意識し、二人の一挙一動に思考を奪われる。

 私たちの表情は、互いへの愛情に満ち溢れて見えていたはずだ。

 

 ――本物の、相思相愛の恋人のように。


「ねえ、ルナ。もうすぐエヴァンと一緒に、あっちへ行ってしまうのよね?」

「ええ。社交のシーズンが終われば」


 ライネオス領は王都から遠く、そう簡単に帰ってこられる距離じゃない。

 生まれた時からずっと一緒だったセレナとは、離れ離れになる。

 寂しそうに小首を傾げるセレナを見て、私の胸も締めつけられる。


「だったら、それまでにお別れのパーティーを開いてもいいかしら。こんなに急だなんて、思っていなかったから……」

「ありがとう。でもセレナの負担にならない? 王族教育も大変になっているって聞くし」

「そのくらい平気よ! それに、カイエルにも協力してもらうつもりだもの」


 当然のように口にされたその名前に、胸がざわめく。


 会えると思うだけで心が浮き立つ自分が、情けなくて、それでも止められなかった。

 けれど、セレナが幸せそうに微笑むのを見て、胸に浮かびかけた感情をそっと押し戻した。



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