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第4話

 目覚まし時計が鳴っている。


 スマホの方のアラームはかけ忘れていたみたいで、最後の砦のこいつが鳴ってる……ってことは。


「遅刻する!!」


 がば、とベッドから飛び起きて、階下へ走る。怒涛の勢いで身支度を済ませて家を飛び出そうとする私を、お母さんが呼び止めた。


「さつき、お弁当!」

「ありがと……! いってきます!」


 路面が凍ってる。昨日みたいに転ばないように気を付けないと。それでも、走らないと……。無情にも、信号が私の前で赤に変わった。ぜえぜえと息を切らし、足を止める。




「だめか……」

「お、おはよ」


 肩で息をする私の横に並んだのは、(みのる)だった。


「実……」

「どした、変な顔して」


 変な顔とは失礼な。私はちょっとムッとしたが、それと同時にホッとした。


「……別に。なんでもないよ、てか、あんたずいぶんのんびりしてるね」


 白い息を吐きながら実は笑う。


「寝坊した」

「見りゃわかるよ」

「さつきもっしょ?」

「う」


 なんか目の下クマできてんじゃん、と実は私の顔をのぞき込んでくる。


 顔が近くて、昨日のことも思い出してしまって頬に熱が集まるのを感じた。


「なしたの」

「……べ、べつに、変な夢見ちゃって」

「ふーん。具合悪いとかじゃないならいいけど」


 ふあ、と大あくびをしながら実は言う。


「なんかさ、俺もちょっと寝不足っていうか……なんか、昨日の事、断片的に覚えてないんだよね」


 疲れてんのかなあ、と続けた実に、昨日の出来事を話すか少し悩んだが、ややこしすぎて説明ができない。サンタに強引にキャラ変させられてたなんて言っても……。


「そ、そうなんだ~?」

「うん、俺さあ、昨日変なこと言ったりやったりしてない?」


 してた。すごくしてた。でも、どう伝えたらいいかわからない。


「えーと……」


 信号が青に変わる。


 自然と並んで歩きだす。




「なんか今日さつき変じゃね?」

「え!? そ、そうかなあ~?」


 昨日はあんたのほうが変だったんだよ、と言えるはずもなく。


「ていうか、急がなくていいの?」

「へ? もうどのみち遅刻だし、一時間目出席扱いになる時間に着けばいくね?」


 いつもの実だ~!! なんだかホッとして、頬が緩む。


「よかった~……」


 深くため息をついた私を見て、実はふっと笑った。


「何が」

「いや、実だなあ、って」

「さっきからどしたのお前。あ」




 急に立ち止まる。


「何?」

「あのさ、クリスマスパレード? なんだけど」


 行かないって言ってた、あれだ。もう一度実は歩き出す。私も歩調を合わせて進む。


「うん?」

「カレンダーみたらさ、その日塾休みなっててさ」


 寒さのせいか、少しだけ実の耳の端っこが赤くなっていた。こっちをみないまま、実は続ける。


「行くか」

「え」

「俺たちも」


「あ……」


 澄んだ朝の空気、晴れ渡っている空からひとひら、ひとひら、雪が降りてくる。実の真っ赤になっている耳に触れて、溶けた。


「うん」

「なんか、根詰めすぎてもあれだし……高校生活最後のクリスマス、だし」

「うん」

「その、俺も、お前と行きたいと思って」


 行かないって前言っちゃったけど、まだ変更きく? と小さく言って、実は前を向いたまま。


「うん、うれしい」


 すごくすんなり、答えることができた。


 少し前の私なら、いまさら~? とか茶化していたかもしれない。


「私も、人数合わせとかそういうんじゃなくて『実と』一緒に行きたいよ」


 頬を少し染めて、実が振り返る。小さいころから変わらないくしゃっとした笑顔で答えた。


「なんだよ、初めからそうやって誘えっつの」


 そうだ、私、実のこの笑顔が大好きだったんだ。いたずらっ子の顔、可愛くて、優しい顔。


「だって……」


 言い訳をしようとして、やめる。


 まだ早いけど、少しだけ、クリスマスの魔法にかかっても良い。


「ごめんね、あの時はちょっと恥ずかしくて」


 実は、前を向くと、小さな声で答えた。


「今更恥ずかしいもなんも……いや、逆に恥ずかしいか」

「へへ」

「よし、決まったからには楽しむぞ。一日がっつり遊ぶべ」

「うん!」




 クリスマスには、もっと素直になるんだ。


 小さい頃みたいに全力で遊んで、全力で楽しんで、


 これからみんな離れ離れの進路になっても、ずっと忘れないように。


 大切なことを、大切な人に伝えられるように。贈り物を渡せるように。


 私も『サンタ』になれるように。








 了

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