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第三話 ヘアメイク係に就任しました(ご褒美つき)

 

 三つ編みを解いたあの日から、私は王様のヘアメイク係に就任した。

 王様の髪はサラサラでツヤツヤで、触っていて心地が良い。

 私がヘアメイクしている間、王様はいつも不機嫌そうだけど「やめろ」とは言わなかった。

 だから、私は今日も椅子に座った王様の後ろに立ち、背中まである金色の髪を櫛ですく。


「今日はどうしましょうか?」

「任せる」

「えー? たまにはなにかないんですか? ハーフアップにしたいとか」

「小娘、俺は貴様の遊び相手をしている暇はないのだが?」


 眉間に皺を寄せながら、王様が冷たく言い放つ。

 まぁ、もう慣れたもんだけれどね!

 彼が、私を気に掛けてくれているのも気づいている。

 だから、もう少ししたら言おうと思っているのだ。


「私、実は白馬に乗った優しい王子様がタイプなんです」


 と。

 少しは性格直んないかな?

 ――直んないな。


「今日もデュポン夫人が来るんですよ」

「そうだな」

「私、ちゃんとナイフとフォークでお肉切れるようになったのに」

「当たり前だ」


 一か月。

 私はデュポン夫人の講義を受け続けている。

 正直、メンタルが死ぬかと思った。

 でも、私にはご褒美がある。

 王様の髪を好きにできる豪華特典だ!

 しかも、マナーにこだわらなくてもいい、おやつの差し入れもある。

 だから、今日まで頑張れた。


「デュポン夫人、お庭のバラが好きなんだそうです」

「そうか。では今日手土産に持たせてやれ。庭師に伝えておく」

「ありがとうございます!」


 デュポン夫人だって、他に社交もあるはずなのに私に付き合い続けてくれた。

 これも、王様が私に教えてくれたことだ。


「貴族の夫人は茶会の主催など家の仕切りの他にもやることは山ほどある。本来は、貴様のような小娘に手を割かせるような者ではない」


 王様の氷のような声で言われたときはショックだったけど、この言葉のおかげで私は夫人の言葉に従えるようになった。

 時間は有限なのだ。

 私も、相手も。


「ねぇ、王様」


 私は王様の髪を結局束ねるだけにして、リボンを選びながら話しかける。


「なんだ」

「もし、また女神様の託宣が来て、実は王様のお嫁さんは違う人だったって言われたら、私は神殿に戻れますか?」


 王様の顔は見なかった。

 窓から入る陽光を浴びた横顔。

 シトラスの香り。

 どれもが私には眩し過ぎる。


「そのようなことは起きぬ。起きぬ話をするのは時間の無駄だ」


 その物言いが王様らしくて、私は安心してしまった。



 *  *  *



「……あなた、本当にシリウス様のお名前をご存じなかったの?」


 私の部屋のテーブルの前。

 呆れて口が開きっぱなしのデュポン夫人の言葉に、私はただただ縮こまっていた。

 今日、意を決して聞いてみたのだ。

 王様の名前を。


「シリウス・アークライト様です。あなたの未来の夫ですよ? これまでどうやって会話していらしたの?」

「私が『王様』と呼んで、王様は私のことを『小娘』か『貴様』としか言いません」


 デュポン夫人の目が見開かれた。

 口元を押さえることすら忘れている。

 でも、これが事実。

 そして、不思議とこれで会話が成立するのだ。


「多分、王様も私の名前は知らないんじゃないかと思います」

「そのようなわけがないでしょう!」


 即座のツッコみに私はびくっとしてしまった。


「でも、呼ばれたことありませんし」

「それは……私が口を出すことではありません」


 逃げたな。

 そっと顔を背ける夫人を私はじっと見つめる。


「ともかく。自分の妃となる方の名前を知らぬなど、あの方にとってはあり得ません。そもそも、巫女の託宣で告げられているのですから」

「そうなんですか?」


 初めて聞いた。

 でも、考えてみればそうか。

 私は巫女の託宣で城に連れてこられた。

 託宣の内容が『王の妃は神殿に掃除婦として勤めている十八歳の女』とは考えにくい。


「知ってたんですか」

「知っているでしょうね」


 なら、なんで私はいつまでたっても『小娘』なのだろう?

 チクリと、胸が痛んだ気がした。




ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

王様の態度も、少しだけ変わってきたようです。

次話もお楽しみいただけましたら幸いです。

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