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第6話:第二の人生頑張るぞ――異世界の現実――

――……一郎改め、タイラー・イチローの決意を宿した視線と表情に安堵した様子のトマルは、司祭として「転生者管理官」の役目を果たすべく、イチローに「簡易宿泊所」入所に必要な書類一式と、地図を手渡す。


「一先ず、これで住所の確保とマイマカードによる身分保障は完了致しましたので、この世界における「労働」と「納税」の義務を果たして頂く必要があります。

イチローさんの場合、転生直後の期間の為、一年間は「全項目の納税」が免除され、来年から正式に王国への「納税義務」が発生します。

外見年齢はさて置き、実質41歳と言う年齢ですので…報酬などから「国民年金保険料」「介護保険料」「国民健康保険料」「所得税」「住民税」も併せて徴取される形になりますので、ご留意ください」

「……やっぱり、税金からは逃れられない、か」


逃がさん……お前だけは…と迫る「()」の姿が思い浮かび思わず身震い、先程迄の決意に漲る表情は何処へやら、しょんぼりと項垂れて溜息交じりの一郎の姿に、ドンマイ、と言葉を掛けるほかないトマル。


「イチローさんは、一応この神殿の所在地でもある『()()()()()()()』所属の国民と言う扱いになりますので、住民票や戸籍謄本関係、法律的な諸手続き、旅券の発行等、行政関連の管轄もユータリア王国となります」

「……女神様よりトマルさんに「現実リズム」刻み込まれてる気がする」


『当り前でしょ、ボク達神々は天上世界に生きて世界を見守る役目……

キミ達は「現実」に生きてるんだから、現実世界の厳しさは、現実で知る…自明の理、だね』


相変わらずスマートフォン端末的な物を覗き込みながら両者の姿を見下した侭でのんびり欠伸交じりに告げる女神の姿は、先程迄の神々しさは何処へやら、休日のリビングにて部屋着で寛ぐ女子的なソレであった。


「神々と近しい世界ではありますが……うん、後は追々、質問やお困りごとが有れば、この神殿でも承ってますので、まずは「お仕事探し」から頑張って下さいね」

「転活の次は就活かい!!!

……だよなぁ、まずは「生活基盤」整えないと「正規転生者」どころの話じゃないだろうし、しかし、若返ったとは言え、若さだけで何とかなるもんなのか?いや、実年齢は四十一のまんまだっけ」


更に押し寄せて来る現実的な話題の波に呑まれ、反射的に海老反り体勢で髪を掻き毟るイチローであったが、すん、と腑に落ちるのは社畜根性と生来の諦観癖の賜物だろうか。

凡そ、情緒が不安定に見られがちなのだが。

「御心配には及びませんよ、ユータリアの王都『()()()()』では、現在深刻な人手不足と言いますか……とある事情により『冒険者組合アドベンチャラー・ギルド』には臨時の仕事依頼が大量に舞い込んで来ている状況ですので、生活基盤を整える為の資金調達は勿論、正規雇用応募の為の資格勉強や人脈形成には困らないかと思います。」

「冒険者組合とかスゲー異世界ファンタジーっぽいとか思ったけど全然そんな事は無かったぜ

……つまり、フリーターとして生活しつつ資格取得と実務経験を積んで、頑張れ、と」


苦笑い交じりながらも、躊躇無く頷きを見せるトマルの姿に、再び現実の世知辛さを痛感したのか、震える唇を噛み締めてますます項垂れてしまうイチロー。


『…さて、そろそろボクもバイバイしなきゃなんだけど、最後に一つ……キミにレンタルしてあげる()()絶対冷静時間チルタイム』について説明しとこうか』


そんなしょぼくれ切った一郎の内情を知ってか知らずか、熱心に覗き込んでいた端末から顔を挙げた女神は、表情をきりりと引き締め直し両手を改めて広げ眼下にイチロー達の姿を見下ろす。


「ち……『絶対冷静時間チルタイム』……?(なんか凄そう!)」


大仰な女神の声音と神々しい陽光の煌めきに高揚感を煽られ期待に三白眼の双眸を煌めかせるイチロー、なんか格好良い感じの響きに、厨二心と言う物が擽られているのだろうか。


『そう……頭に血が上っちゃった時とか、戸惑った時とか…「やば!」となっちゃう緊急事態でも「()()()()()()()()()()()()」能力……』


身体に降り注ぐ淡い光の帯が聖能を刻み込む様に取り巻き、音も無く弾ける。

聖能を貸与し終えたシメイジルは、ふぅ、と短い溜息交じりに広げていた腕を戻し、ふわりと更に浮遊する位置を高くして、天窓の辺りまで至り。


「……え……と……それ

つまり……「()()()()()()()()()()」…て、コト……?」


『そうとも言う』

「えぇぇ……」


思わず、ハチワレてる猫的な口調になってしまうイチローではあったが、無いよりはマシ、と思い止まり不満を漏らしかけた唇をきゅっと噤む。


『じゃ、そう言う事で……精々気張りなよ、タイラー・イチロー

キミには期待してるから……退屈させないでね?……タ・パンタ・ミラ(全ては運命なり)


一際高く輝き、中空に差し掛かる太陽の眩さが見上げるイチロー達の視界を覆い隠し、視界が瞬間的に純白に染まり……薄く瞼を持ち上げた時には、奔放な女神の姿も掻き消えて、妙な余韻が神殿内を満たす。

状況の落ち着きを確認した助祭や周囲の神官達は、女神との邂逅に若干色めき立っていたり立ち話もそこそこに散会し、安堵の溜息と共に女神へ倣い「タ・パンタ・ミラ」の言葉を紡ぐトマル。


「では、改めまして、タイラー・イチロー……汝の道程に、運命の加護あらんことを……あ、簡易宿泊所の入所手続きは夕刻までにお願いしますね」


「とほほ……」


――……ぺこり、とトマル達の見送りに頼り無い一礼を向けた後に神殿を立ち去るイチロー。

その後、神殿から支給されたらしい、ア=リフレトルの旅人達が一般的に纏うとされる旅装束姿、地味、と言うかおばあちゃんの田舎料理的な色合いの煎茶色や煤竹色ベースのベストに生成りの上質な織りであるらしいチュニックを…だぶつくのか、七分丈に腕捲り。

ボトムは鉄紺色でこれもまた地味極まる色彩、ブーツも鞣した鹿革製でシンプルな造りのショートブーツと煎茶色のオープンフィンガーグローブ、緑青色のケープにマフラーと言った具合。

そして当面の着替えや荷物を詰め込んだ、柿渋染めと思われる背負い袋もまた、地味さ加減に拍車を掛けていた。

とぼとぼとした足取り、そんな中でも視界の先に広がる光景は、鼠色の建物や鈍色の空ではない。

透き通る青の空、輝きに満ちる息吹の駆け抜ける草原と、慎ましくも賑やかな喧騒の響く異世界の街並み……次第に足取りも軽く弾む様に、しょぼくれていた顔立ちも見る間に輝きを取り戻す。

湧き上がる高揚。

そう……ここは異世界……新たな、人生の舞台なのだ。


「平 一郎、改め……俺は!!タイラー・イチロー!!

  41歳、異世界で第二の人生!! 頑張るぞ!!」


「……ぶはッ!」


意気揚々と拳を握り固め、天高く突き上げると同時に地面を力強く蹴り、飛び上がる。

燦燦と降り注ぐ陽光がイチローの額を輝かせ、絶叫に近い声音を張り上げたガンバるぞ宣言の後ろで、噴出す声。

そこには、目深く被ったフードの奥に金髪碧眼の美丈夫然とした面立ちを隠し、見上げる程の背丈を誇る巨躯の人影が、ふるふると肩を震わせ懸命に咳払いを繰り返しながら爆笑を堪えている光景。


「……ッ……さ

  ……サヨナラ!!!!!」


爆発四散。

そんな勢いで一瞬にして脱兎の如き俊足を得たイチロー。

早速異世界の人に盛大な赤恥を披露したイチロー。

全身正に茹蛸の如く真っ赤に茹だらせ、猛然と簡易宿泊所への道を涙目(むしろ泣いていた)爆走する羽目になったのであった……――


まだ回想続いてるけどいつ本筋始まるの、そんな第七話に続く――……

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