第1話:転生のあれこれ――転生にも非正規ってあるんですか?――
―――…… 漆黒の闇、無数に爆ぜる七色の光
響き渡る喧騒、焦燥に惑う人々の声……――――
闇の中…切れ切れに、微睡む意識に響き渡る……―――
『…ル……ッ――様…エリ………ル様…!!「余波」による『波及』被害――…甚大…』
『――…剣士―― …依然、応答無し……――ッ……』
『……――は……私が直に、対応致します……―― 』
『……――御意…ッ…』
『―ロー…― …ク… シ…―…ジルが、向かっています……
良いですか…冷静に…対処するのです……』
――――…一郎の… ――意識に―――響く……
――……
――…
異世界転生もの……――
広告やら動画やら経由で時々暇潰しに有名作品流し読み、動画サイトでまとめ動画眺めたり、その程度でしか触れ合わず
好きな作品のタイトル挙げろと言われてもうろ覚え程度の異世界転生物語。
チープな世界観に、どこかで聞いた事ある、見た事有る、そんな無限に湧き出るご都合展開とか設定とか
冴えない主人公が生まれ変わってなんやかんやで無双する、自分もそうなりたい……
……なんて
俗に言うオタク属性の人間でなくとも、輪廻転生とかタイムリープとか含めて、誰しも一度は想像する事だろう。
山無く谷無く、陰も日向も無く
罪を犯すでもなく、堕落する事も出来ず国民の義務を黙々と果たすだけの
虚無極まる人生41年を過ごした、この物語の主人公…らしい『平 一郎』も、想像した事は有るのだ。
願わくば、高校生辺りから地味に人生やり直したいなと常々思いに更ける事が日常と化していた。
有り得ない妄想だけを糧に、黙々と……実に黙々と、契約社員として業務を警備員業務をこなす日々。
家無し、嫁無し、学も無し、ついでに資格も一切無し
ウサギ小屋おじさんとして、還暦迎えた両親に溜息吐かれつつ無為に過ごすだけの人生だった……。
決して世を儚んで……とか、凶悪事件に巻き込まれたとか、理不尽な交通事故に遭遇する訳でもなく…
夜勤明けの定番行事として、発泡酒しこたま流し込み、激安スーパーの総菜コーナーで見切り品と化した大好物揚げ物セットを掻っ込み、盛大にゲップかました後に……
動画垂れ流しながら42℃の熱々風呂で、だらーーーっと1時間たっぷり寛ぐ。
……そんな日常の最中、普通に死んだのである。
気付けば、真っ黒い、一面真っ黒な景色が漠然と広がる空間。
意識は普通に有るし声も普通に出る……が、浮遊感?しか無く触覚だけが消飛んだ感覚。
それもその筈……今の身体は、発光体って言うか光るタンポポの綿毛みたいな
……ケサランパサランと称される形態になっている様だ。
その上で漠然とではあるが、これは夢とかじゃなくて普通に死んだんだなと、曖昧な認識ではあるものの、得心出来てしまった。
今迄の人生に未練が有ったか無かったかで言えば、有り寄りの有りだ。
親兄弟、数少な過ぎて指2本で数えられそうな友達連中に別れの言葉位は言いたかったし
まだ美味しいもんも食いたかったし、貯金ばっかしないで行った事無い沖縄旅行も行けばよかったとか、未練のフルコースな人生であった。
ここでなにくそ絶対生き返ってやるとか感情豊かに喚き散らしたりするのが普通なのだろうが…
そこでふと、一郎の脳裏を過るのは、今迄の人生がこう……無味無臭と言うか虚無過ぎて、足掻くのも面倒だなとか思い至った諦観の念。
そして、ほんの少し……ほんの少しだけ心の底に残るのは
「いい人生だった」と思いたかった未練の欠片。
何はともあれ、状況はさて置き意識だけは有る状態なのは確かで、かと言って何も出来ない状態。
八方ふさがり。
「どうすんの?てかどうなんの??」と疑問符ばっか頭に浮かんで思考が混迷を極め…段々眠くなって来て……
ふ、と一瞬、意識が飛んで……聞こえて来る声……
優しい……温かい……訳ではなく
無駄に爽やかな声……
何というか……普通に声掛けられてる状況?
「…… さん ………… 平 一郎さん?離職票は受理されてますので……
まず3番の窓口前でお待ち下さいねー…はい、これ、利用者アンケートですので……待ち時間の間に記入しておいて下さいね」
「は?」
視界に飛び込んで来たのは、天使、女神様……老人然とした神様…………
ではなく…なんか休日のお父さんが着てるっぽいポロシャツにスラックス姿で
ふっとい首からIDカードぶら下げて、なんか分厚そうな眼鏡かけたスポーツ刈りで
無駄にガタイの良いクソ真面目そうな青年。
そして無駄に背が高い役所のカウンターぽい物。
「あ、まずここが何処か……から説明しなきゃです?」
「……お願いします?ていうか毛玉状態なもんでアンケート記入出来ないんですけど?」
「あなた達、地球人が住む世界から異世界への転生を紹介斡旋、職業訓練からアフターフォロー迄を承る、幽世立公共職業安定所、通称『ハロー異世界ワーク』略して『ハロワ』です」
無駄に朗らかに響き渡る案内役を自称する青年の声音…そう、目が覚めたら、公共職業安定所?であった。
「なんて?(さらっとアンケート書けない状況スルーしたなこの人)」
「ハロワ!!です!!!!」
「もうええわ!!」
出物腫物所かまわず、関西弁も飛んで出る。
何もかも腑に落ちない触れ込みと、状況。
だから結局、どこやねん。
心の底からそう思う一郎であった。
――第1話とは文字数が倍違う、第2話へ続く……




