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デウス・エクス・マキナが「もう闇落ちする作者は見たくないの!」とおっしゃっている!

作者: 蔵樹りん

「ああ……今回の作品もポイントが伸びない……。このままじゃ書籍化なんて夢のまた夢だ……。仕方ない、あれをやろう。そうすればランキングに入ってポイントも稼げるはずだ……」


「こらーっ!!」


 スパーン!


「うわあ!?」


 椅子に座ってパソコンデスクと向かい合っていた僕は、いきなりの大声と何かで叩かれた衝撃に椅子から転び落ちそうになった。

 慌てて後ろに振り向くと、そこには天井からワイヤーで吊り下げられた少女がいた。手にはハリセンを持っている。

 ……なぜか、少女は怒りの表情で僕を見ていた。


「な、なんですかあなたは!?」


 気圧されながらも発した誰何すいかの声に、少女はワイヤーで吊られたまま、ハリセンをぶんぶん振り回す。


「あたしはデウス・エクス・マキナなの! お前みたいなやつは見てられないの!」


 名乗りを聞いた僕は、食い入るように目の前の少女を見つめた。


「デウス・エクス・マキナ!? 演劇などでこんがらがった物語を、超展開で無理矢理終わりに導くあの絶対的な存在のことですよね!? またの名を機械仕掛けの神ともいう!!」

「……この前のやつも知ってたし、あたしの知名度もまんざらでもないの」


 どことなく満足そうな、デウス・エクス・マキナと名乗った女の子。

 未だに信じられない気持ちながらも、多少冷静さを取り戻した僕は恐る恐る聞いてみた。


「それで、そのデウス・エクス・マキナさんが何か用でしょうか? 僕は自分の作品で超展開なんてやったことはありませんが……」


 僕の言葉にデウス・エクス・マキナさんはにっこり笑う。


「それは素晴らしいことなの。この小説サイトにおいて、ちゃんと物語を綺麗に終わらせる作者はあまりいないの。お前は大したやつなの」

「あ、ありがとうございます……」


 そんな褒め方をされたことはこれまで一度もなかったので嬉しい。目の前の少女につられて僕も微笑んだ。

 しかしそれも束の間、少女の笑みだけが消えて厳しい顔つきになる。


「だからこそ、お前がしようとしている行為を見てられなかったの!」

「な、何のことです!?」


 僕はあわてて少女の視線をあるものからさえぎるように体の位置を変えた。


「とぼけても駄目なの! お前が仕事依頼サイトを経由して、自分の作品に大量のポイントをつけさせようとしたことは分かってるの!」


 少女はセリフと共に、持っているハリセンを僕に向けてびしりと突き付けた。

 いや、実際に少女がハリセンを突き付けている対象は僕だけではなく、その後ろのパソコンモニターも含めてなのだろう。

 モニターには、少女が言った通りの仕事依頼サイトが映っている。ちょうど今から僕の作品にポイントをつけてもらうための依頼をしようと思っていたのだ。

 言うまでもないが、そうやって作品のポイントを増やすやり方は不正行為として禁止されている。


「くっ……ばれてしまっては仕方ありません……でもそれがなんだっていうんです!? きっとランキング上位者は全員こういったことを日常的にやってるはずだ! なら僕がやったってかまわないでしょう!?」


 逆切れするように声を張り上げる僕。


「まずお前は勘違いしてるの! そもそもランキング上位者が皆そういった不正をしているということはあり得ないの! 頭を冷やすの!」

「で、でも中にはそういう不正行為をやっている人だっているでしょう! いろんなところからそういった噂話が聞こえてきますよ!」

「確かにそういったやつもいるかもしれないの! でもほとんどの作者は地道に活動を続けてファンを増やしていったの! だから見てもらえる可能性も高いし、結果的にポイントも多くなるの!」

「そ、それはそれで土俵が違いすぎるじゃないですか。最初っからポイント的に優遇されているなんて……僕に言わせればチートみたいなものです……ずるいです……」


 僕の反論にもならない反論を少女は聞く価値もないとばかりに無視する。


「それにお前がやろうとした不正行為にはリスクがあるの! ポイントが大量に稼げて仮に書籍化という話がきても、お前のやったことがばれたら炎上し、白紙に戻ってしまうかもしれないの!」

「うぐぐ……たしかにそういったリスクも考えなかったわけではありませんが……」


 僕の声が力を失う。

 リスクとリターンを前にどうすべきかしばらく迷っていたものの、最終的に依頼サイトを利用しようという考えに染まっていってしまったのだ。

 ……いつまでたってもランキングにかすりもしない現実に、心が折れてしまったのだ。


「ちゃんとこれまでの自分の作品を振り返るの! お前のファンは着実に増えてるの!」


 少女の言う通り、最初期に比べて少しずつブックマークや評価ポイントが付くようになっている。じれったくなるほど少しずつだが。

 そのことに気づいていなかったわけではない。しかし、あまりにもどかしく感じて、つい即効性のあるやり方を選ぼうとしてしまったのだ。


「さっきも言った通り、地道に活動を続けてファンを増やすのが一番の近道なの! 総合的に考えてこれに勝る手はないの!」

「うう……僕にそんなトップレベルの人たちと同じことをしろって言うんですか……でもそれにはいったいどれだけの時間がかかるか……」


 まだ抗弁する僕を見て、少女はとどめの口撃こうげきを放つ。


「さっきは書籍化しても不正がばれたら白紙に戻るかもしれないと言ったけど、それ以前に不正をしたらアカウントが凍結されるかもしれないの! そしたらお前がこれまで書いてきた作品も全てサイトから消されて読めなくなるの!」

「そ、それは……でも……」

「そしたらお前のファンが悲しむの! 書かれた感想だって消えてしまうの!」

「!!」


 その一撃が、ついに僕の急所を捉えた。


 初めてもらった感想のことは今でもよく覚えている。自分の作品に感想が書かれたことを知らせるメッセージを見て、まず喜び、次に何が書かれているのかと不安になった。幸い書かれていた感想は面白かったことを伝える好意的なもので、ほっと一安心し。

 その日は感想にどう返事すればいいかと、何時間も悩んだものだ。


 あれが、消えてなくなってしまう!?

 それは、あの時の感動も、感想返しでやりとりした思い出も消えるということだ。


「うう……それは……嫌です」


 僕の口から、ついに自分が行おうとしていた不正行為を否定する声が漏れ出た。

 たとえ多くのポイントを手に入れたって、引き換えにあれを失って良いわけがない……!


「だったら不正をせずに頑張るしかないの! もう少しなの! きっとファンも応援してるの!」


 うなだれる僕にかけられる言葉と声は相変わらず居丈高いたけだかだったけど、先ほどまでと違って少しだけ優しいトーンだった。


「そうか……そうですね……」


 僕は、のろのろとした動作で体の向きを変えるとパソコンを操作し、モニターに映っていたままの依頼サイトページを消した。


「これでいいんで……あっ!?」


 ふたたびデウス・エクス・マキナさんの方を振り向いた僕だったが、いつの間にか彼女の姿は消えてしまっていた。

 もう僕のことは心配ないと思ったのだろうか。二度と馬鹿な真似はしないと信用してくれたのだろうか。


「……」


 ……今なら、また仕事依頼サイトのページを立ち上げても咎める者はいない。

 でも、不思議とそういった気持ちは湧いてこなかった。

 少し前までは暇さえあれば考えてしまうくらい、ポイントを渇望していたというのに。

 代わりに見慣れた小説投稿サイトのページを立ち上げる。


「……今日も頑張って続きを書くか」


 清々しい気持ちを胸に残したまま、僕は新作の続きを書くためにログインした。




これにて完結です!

お読みいただき、ありがとうございました!

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