3.その頃、人間たちは。
ここまでオープニングです。
続きが気になる方は、是非あとがきもお読みください!!
――一方その頃、人間たちは。
「おい、聞いたか。……新しい魔王の噂!」
「知ってるに決まってるだろ!? なんでも、歴代で最も恐ろしいとか……」
王都ガリアの城下では、そのような話が広まっていた。
平民たちの口から口へと繋がるガイアスの評は、尾ひれがついていく。歴代最恐、最悪の存在であり、力による支配で人間たちをも呑み込もうとしている、と。
事実無根の噂に過ぎないはずのそれらは、いつしか彼らにとっての真実となっていった。すなわち魔王とは、人間にとって恐怖の対象だと。
◆
「……魔王、か」
その話は当然、王都ガリアに住まう国王ルシウスの耳にも届いた。
臣下の者たちからの進言によって、彼は早急に魔王対策をすることになったのだ。だがルシウスは人々の想定以上に慎重な姿勢を取る。
「果たして、人間を滅ぼさんとするは真実か。……見定めなければ」
齢八十を超える彼には、経験と胆力が備わっていた。
人々が恐怖に慄く中でさえも、作り上げられた真実ではなく、動くことのない事実を見据えている。しかしその態度は、見様を変えれば遅速とも受け取られた。
それを真っすぐにぶつけてきたのは、ルシウスの孫にあたる青年。
「爺さん、いつまで暢気に構えてるんだよ!」
名をアルフレッドという彼は、血気盛んに進言を続けていた。
「魔王が良い奴なわけあるか!? 爺さんは大馬鹿者だ!!」
「だが、アルフレッドよ。お前こそ、如何な確信を以て魔王を悪と断ずる?」
「そんなの、人間じゃない、ってだけで決まりだろ!?」
「浅い、浅いぞ……アルフレッド」
「な……っ!」
しかし、ルシウスはそう返して意見を退ける。
アルフレッドは馬鹿にされたのだと憤り、拳を震わせて無言のまま去っていった。その後姿を見送って、国王は静かに思考を巡らせる。
その時だった。
「……ぐ、かはっ……!」
「陛下! 大丈夫ですか!?」
ルシウスが激しく咳き込み、苦悶の表情を浮かべたのは。
臣下の者が素早く駆け付けようとするが、彼は手でそれを制した。大きく肩で息をしているものの、どうやら命に別状はないらしい。
もっともそれには、今はまだ、という言葉が付くが。
「……ふむ、儂も老い耄れたものよな」
自身の身体の限界を察しているのだろう。
ルシウスは静かにそう呟くと、大きくため息をついた。
それでも、決して急くことはない。何故なら彼にはまだ、情報が足りない。そのような状況で判断を下せば、誤った結果を招くと知っていた。
だから彼は、ただ時を待つ。
自身にとっての最後となるであろう大仕事、その重要な頃合いを……。
◆
「ふざけるんじゃねぇぞ、あの馬鹿ジジイが! 暢気が過ぎるぜ!」
だが、そのようなルシウスの思いを知らず。
アルフレッドは悪態をつきながら、私室の椅子を蹴り倒していた。しかし彼の怒りはいまだに収まらず、その感情を散らすように金の長い髪を掻き毟る。
激情に身を任せた青年は、その蒼の瞳に憎しみの感情を宿し、窓から見える王都の街を見下ろした。そして、こう口にする。
「俺が認められないのは、あのジジイのせいだ。……だったら――」
口角を歪め、軽く唇を舌で湿らせ。
アルフレッドはそれ以上を口にしないまま、肩を軽く揺らすのだった。
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