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青き踏む  作者: 岡倉桜紅 原案:露
9/13

気球

炎に囲まれた村の教会の奥にある柱時計のガラスの戸が開いて、二人の羊人間が転がり出た。ジャンと少女だ。

「ロルフ!」

ジャンは教会の床に伸びているロルフに駆け寄った。少女のほうはがたがた震えながら時計の前で腰が抜けてへたり込んでいる。

狼たちが撤収したので、隠れていた羊たちが次々と姿を現し、村の消火にかかり始めた。


火がようやく消し止められた時にはもう夜明けが近かった。

生き残った村人たちは教会に集まった。

「ロルフは俺たちを救ってくれた。話を聞いてやりたいんだ」

ジャンの説得で、最初は怯えていた村人も、少しずつロルフと距離を縮め、ロルフが負った怪我を介抱し、水を飲ませた。


ロルフは目を開ける。全身がまんべんなく痛かった。

「気が付いたようだね」

村長である、長いひげの老人が進み出てロルフに言った。ロルフは体に巻かれた包帯を見る。

「これ……、ありがとうございました」

「こちらこそ礼を言いたい。この村の未来ある二人の若者の命を守ってくださった。そして、ローラの子と知りながら地下牢に入れたりしてすまなかった」

頭の隅で、守った、と言うのは少し違うような感じがよぎったが、ロルフは曖昧に頷いた。今までしてきたことは、ぶつけた主張は、すべて自分のためだった。

「あの、この村に俺が来たのは、みなさんの知恵を借りたかったからなんだ」

「知恵?ほう、役に立てるかはわからんが、言ってみなさい」

「俺は、あの空に浮かぶ飛行船に乗り込みたいんだ。なにかそのいい方法を教えてくれないか?」

教会の中がざわめきで満ちる。

「飛行船?一体何をしに。空にいるのは狼よりも残虐非道な、人間だぞ。人間に何の用がある」

「人間はやっぱりざんぎゃくなのか?」

老人は棚から古く、分厚い本を取り出し、ページをめくった。めくるたびにかすかなカビの匂いがし、パリパリと音がした。

「その通り。人間はその欲深きゆえに虫から地を追われたのじゃ。人間は空に追いやられてもなお、その欲を捨てず、空を支配していた美しい生物、鳥をさえ、空を飛ぶ道具として使役しようとした」

「人間は鳥人間をしえきしているんだな」

ロルフはこぶしを握り締めた。飛行船の下で聞いたあの怒声と恐怖の音は本物だったのだ。では、今リーゼルは人間にひどい目にあわされているということだ。決して必要とされているわけじゃない。ただ利用されているだけだったんだ。

「早く行かなくてはならないんだ。何か、空を飛ぶ機械はありませんか?」

「……安全ではないぞ。本当に行くのか」

「はい」

老人はその言葉をかみしめるかのように二三度頷いた。

「そうか。では、ジャン、あれを」

老人がジャンに何か指示した。ジャンはロルフについてきて、と言うと、村の地下道へとロルフを連れて行った。松明を掲げて階段を下りていく。古くからある洞窟のようだ。ロルフが今まで一度も入らせてもらえなかった場所だった。


「これは……?」

やがて二人の前に現れた大きな部屋には、気球の形をした小型の飛行船が置いてあった。

「実験的に作られたミニ飛行船さ。ガス気球の要領で、そこそこ高くまで飛べる。いつか俺たちも狼に追われて空に逃げなくちゃいけなくなるかもしれないからね」

つないである綱やロープを準備しながらジャンが説明する。

「もらってもいいのか?」

「いいさ。俺が主導で作ってたんだから、ほぼ俺の物。俺の大事な人の命を勇敢に助けてくれたロルフにあげるなら本望だ」

「ありがとう」

ロルフはかごに乗り込んだ。

二人は握手をした。ロルフはジャンの手を思い切り握ってやった。手を離した後ジャンはかすかに痛そうな顔をして自分の手をさすったが、少し笑った。ジャンが壁のレバーを引くと、天井扉、すなわち、地表面が開いて、気球のバルーンは膨らみ始める。ロルフは手を振った。気球は朝日を浴びながら上昇していった。

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