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青き踏む  作者: 岡倉桜紅 原案:露
6/13

飛行船

飛行の練習は、ちっともうまくいかなかった。

何十度目かわからないが、リーゼルが不器用に翼を動かしながら草原に落下する。ロルフは額の汗をぬぐって草原にあおむけに寝転がった。そよぐ微風が汗を冷ましていく。草原は、山の頂上にほど近い開けた平地で、飛行の練習にはぴったりだった。草原のところどころには、昨夜の様子が嘘だったかと思えるほど穏やかで動きの鈍い虫が何匹か草を食んで日光浴をしている。体表に生えそろった緑色の触手も、草原の一部のように風になびいていた。

「大丈夫?」

ロルフの顔の上に影が落ちて目を開けると、リーゼルが上から覗き込んでいる。

「平気さ」

ロルフは言った。リーゼルが助走をつけて手を組んだロルフの元まで走り、ロルフの組んだ手を踏み台にして飛び上がり、そこから風を捕まえるという練習だった。ロルフは手をタイミング良く振り上げてリーゼルを高く投げ上げる。なかなか体力がいるのだった。

立ち上がろうとしたとき、二人を覆うように影が差した。見上げると、大きな空飛ぶ船がゆっくりと二人の頭上を通過していく。船は隊列を組むように何隻も連なって雲を分け、空を走っている。プロペラの音がする。

「飛行船だ!」

リーゼルは走り出した。

「待って!私、リーゼル!空から落ちたの!乗せて!」

大きく手を振って、夢中で翼をばたつかせながら影を追って走っていく。ロルフは立ち上がった。何か胸騒ぎがした。

ロルフの耳に聞こえてきたのは、プロペラ音に混じった怒声と恐怖だった。

「リーゼル、ちょっと待って……!」

その時、飛行船の下の部分のドアが開き、小型の動力付きのハングライダーのようなものに乗って、人間が何人か降りてきた。上空を行く船は速度を落としているようだった。二人のことを認識したのだろう。風を受けて高速で回転していたプロペラの風を切る音は、だんだんと小さくなっていた。

「私、リーゼルです!船にまた乗せてください!」

リーゼルはハングライダーで降りてきた人間の元に走る。

パァン。

唐突に銃声が鳴った。走っていたリーゼルは一瞬、急に脱力したようにその場に静止し、そして倒れた。羽毛が舞った。ハングライダーに乗っていた人間は二人で、ガスマスクをつけ、全身を覆う白い防護服のようなものに身を包んでいた。構えているのは麻酔銃の類のようだった。人間は、トランシーバーのような機械に向かって話した。

「4634番、確保しました。帰還します」

ロルフはリーゼルと目があった。リーゼルの目は恐怖に見開かれていた。リーゼルの体はびくびくと痙攣し、立ち上がることもできなかった。人間は乱暴にリーゼルを大きな金属でできた網で包み始める。

「待て!そいつをどうするつもりだ?」

ロルフは叫んだ。人間はロルフにちらりと一瞥をくれただけで、何も返事をせず、網で包む作業の手を速めた。

「おい、質問してるんだよ」

ロルフは走っていって網で包んでいる手をつかんだ。人間は悲鳴を上げた。マスクのせいで顔は見えないが、ロルフよりも幼い青年のようだった。

「何って、もちろん、飛行船のために働かせるんだよ!決まってるだろ!」

「どうしてこんなに乱暴に連れて行くんだ」

「こいつが逃げ出したからに決まってる。逃げ出す鳥には罰を与えなくっちゃ。俺たち人間は鳥人間がいなきゃ生きられないんだ。俺の仕事は鳥人間をちゃんと働かせることなんだよ。てか、放して!痛い!」

「悪い」

ロルフは力が入りすぎていたのに気づいて青年の手をぱっと放した。爪が食い込んだせいで、青年の防護服には小さく穴が開いていた。

「ごめん、その……」

青年はロルフをにらむと、網を括り付けたハングライダーに飛び乗った。

「今日の夕飯を奪って悪かったな」

二人の人間が乗り込むと、ハングライダーは飛行船のほうに向かって戻りはじめた。リーゼルと目が合う。その瞳には涙が浮かんでいた。

飛行船の側面の壁が一斉にゆっくりと開いた。海をこぐ櫂でも出てくるのかと思いきや、一斉に出てきたのは、腰に鎖を巻かれて船につながれたたくさんの鳥人間だった。鳥人間たちは飛行船を引っ張るように、上へとはばたいた。

飛行船はゆっくりとまた動き出し、風とともに、立ち尽くすロルフのいる山から遠ざかっていった。

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