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ゲームの悪役貴族に転生した俺、なぜか討伐に来たはずの女勇者に告白される  作者: コータ


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ポーン邸への来訪者

 このところ何かと誤解が深まっているような気がする。


 俺としてはあまり良い傾向じゃないと思うんだが。とにかく馬車で家に帰った頃、また体が怠くなってきた。


 キュアは病気自体は治癒してくれるみたいだけど、失った体力までは戻してくれなかった。疲れきってしまい、夜ご飯も取らずにそのまま眠ることにした。


 ちょっと明日が心配だったけど、そういえば祝日だったっけ。ならしっかり休めば問題はない。長い睡眠の果てに見た夢の中で、なぜか俺はミナと食事をしていた。


 ◇


 そして次の日の朝。いきなりベッドに何かが落っこちてきた。


「おにーさまー! おーきーてー」


 勢いよくシーツを剥がそうとしてくる妹。ニカニカしながら引っ張ってくるが、俺は必死で抵抗する。


「カンタが来るまで寝る」

「カンタはお父様とお母様とお話ししてる。おにーさまのことで秘密の会議なんだって」


 ん? なんか気になることになってるな。


「俺のことで?」

「うん。ほけんがなんたらって」


 カンタめ! さては昨日のことを喋ってやがるな!


 妹に抵抗している場合ではなかった。跳ね起きて広間に向かうと、なんか意味ありげな視線を感じた。父上は一見すると何も変わっていないが、母上はあからさまに笑っている。


「坊ちゃん、おはようございます! いやー、今坊ちゃんとギガスラック家のお嬢様の話をしてたんすよ」

「ああ、体調が悪かったところを助けてもらった」

「まあー。グレイドったら、その後、保健室でいい感じだったらしいじゃないの」


 こういう話し方を聞くに、母上はマジで貴族っぽさがない。昼ドラとか好きそう。


「いいえ。そのようなことはありません」

「看病してもらったらしいではないか」

「キュアはかけてもらいました」


 ここまで話すと、カンタはへえーと驚いていた。


「お嬢と同じ魔法が使えるんすね。聞くところによると大抵の属性の魔法は使えるらしいっすよ。すげえー!」


 そうだった、メラニーも使えたんだっけ。あれ? じゃあなんで一昨日、自分で治癒しなかったんだ?


「おにーさま! ほけんしつで何しやがったの!?」


 すると、なぜか急に機嫌を悪くしたメラニーが怒りの眼を向けてきた。しやがったとか言うのはやめなさい。


「眠っていた。それだけだ」

「ウソ! れいじょーとかんびょうという単語がありました。つまりかんびょうプレイをおにーさまは楽しんだのです」


 看病プレイって、お医者さんごっこ的なことを言ってるの? やめて、お兄ちゃんはそんなにアブノーマルじゃないよ……まったく興味ないわけじゃないけど。


 ここまでわいわいやっていたところで、父上がコホンと咳払いをする。


「貴族にとって貸しができたというのは大きなことだぞ、グレイドよ。伯爵家たるもの、受けた恩はきっちりと返さねばならん」

「はい。今後の憂いなきよう、早めに精算するつもりです」


 精算なんて表現はよろしくないけど、少しでも照れてる自分を隠したかった。


「うむ。だがお前も何かと忙しい身だ。私のほうで一つ考えがある」

「は?」

「ミナ嬢を我が邸に招くことにした」


 マジかよ! 招くことにした、ってもう決定なの?


 別にあの娘自体は全然嫌いじゃないんだけど、勇者が絡んでくる可能性がある。運命の日も近いのに、このままじゃ何かと危険だ。


「父上、私には必要のない配慮です」

「坊ちゃん、そう言わずに。だってもう、俺ポストに手紙入れてきちゃいましたし」

「昨日のうちに決めておいたのよ。お昼頃なんていかがですって書いたから、もうすぐ来てくれるかもね」


 手紙を書いたのは母上なのか。行動が早すぎるだろ。いや、昨日グロッキーになって何もしてなかった俺が悪いのか。


 勘弁してくれよーと心の中で唸っていると、またしてもメラニーがくっついてきた。


「おにーさまにいろめをつかっている女が来る。メラニーが倒す!」


 なんで倒すとか言い出すのこの子! 


 カオスだ。なんというか、やたらと接点を持たせようとしてくる両親とカンタが果てしなくウザい。警戒しなくちゃいけない相手の妹なんだって。


 こうなったら無理にでもカンタを連れ出して町へ行こう。そう思っていた時だった。一人のメイドが小走りで広間にやってきた。


「坊ちゃんへのお客人です。ミナ様がいらっしゃいましたわ。ゼール様もご一緒です」


 思わずメイドを二度見してしまった。最悪じゃないか。


「すぐにお招きしろ」と父上が即答する。いやいや、あなたに言ってませんよ。

「はい」


 メイドも何の疑問も持たずにダッシュして消えた。まあ、主人の決断だからしょうがないけど。


 すぐに庭へと出た俺達は、白地に青枠の馬車が優雅に門を抜けてくるさまを眺めていた。


 やがて馬車置き場に止まると、中から優雅な立ち振る舞いの少女が降りてくる。やっぱり貴族だけあって、様になってるよな。


「ローレンス様、皆様……本日はお招きいただき、誠にありがとうございます」


 スカートの裾を上げて礼をするミナ。今回は青を基調としたショートドレスに細身を包んでいる。爽やかさが段違いだ。


「やあ、忙しい中呼びだてして悪かったね。うちのグレイドがお世話になったようで、せめてものお礼をしたくなってね」


 父上が柔らかい物腰で応対している。女性や子供には優しいダンディーな親父である。ただ、後ろにいたカンタは何か落ち着きなく俺と彼女を交互に見ていた。


 そして小声で、「やばいっすね坊ちゃん」などと囁いてきた。何がやばいんだよ。


「ぐ……ぐぬぬぬ」


 メラニーはなんか呻いてる。母上は一言二言ミナと言葉を交わした後、親しげに邸の中へと招くのだった。


 この間、俺はというとずっと呆然としていた。周囲に圧倒されていたこともあるが、どうも奇妙な予感めいたものを感じていたからだ。


 この世界に転生してからというもの、予感は常に当たっている。まずよろしくない悪い方向ばかりだが。


 さらに遅れるようにして、もう一台の馬車が入ってきた。ミナが乗っていたそれと色使いは同じだが、大きさといい操っている馬といい、より豪勢になっている。


 ゼールは降りるなり、一瞬だが俺に鋭い眼光を向けた。

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