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ゲームの悪役貴族に転生した俺、なぜか討伐に来たはずの女勇者に告白される  作者: コータ


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いないはずの魔物

 まずはこの樽が邪魔だ。どかした後、さっさと子供達を助けないと。


「裏口だったらしいな。カンタ、あの樽をどかしてくれ」

「流石にバレると思うんすが、俺なりのやり方で大丈夫ですか?」

「せいぜい派手にな」


 俺の返事を聞いて、カンタはニヤリと笑った。ちょっとだけ後ろに下がってから、助走をつけて思いっきりジャンプし、渾身のドロップキックを見舞う。


 するとかなり大きな音を立てて積み上げられていた樽が崩れ落ち、部屋の中に向かってゴロゴロと転がっていった。その隙に乗じて、俺たちはすぐに足を踏み入れる。


 中はたった一つの丸部屋となっているが、学校の体育館ばりに広い。牢屋が作られているようで、そこに子供達が六、七人は閉じ込められていた。


「んん? お前らは誰だ?」


 中央に立っている魔物が言語を発した。牛の頭と人間の体を持ち、太く逞しい手には巨大な斧が握られている。ミノタウロスだ。それも十体はいる。


「こ、こいつら! 裏口から入りやがった!」

「兄貴、こいつらは曲者だ。殺そう!」


 慌てた様子のミノタウロスが、真ん中にいる一際ガタイのいい奴に選択を急がせようとしていた。どうやら真ん中に陣取っているデカいやつがボスで、あとは子分のようだ。こういう所もゲームでプレイした時と同じ。


 数では向こうが断然優っているので、さっさと動いたほうが良さそうだ。


「カンタは好きに暴れろ。メラニー、ライトアローで攻撃と援護を頼む。ロイドはメラニーを護衛しろ。間違っても妹に怪我をさせるなよ」

「おっしゃあ! じゃあやりますか」

「はーい」

「え!? は、はい」


 ミノタウロス達はすぐさま戦闘態勢を取る。俺は心持ちゆっくりと長剣が収められた鞘をカンタへと向けた。戦いたくてうずうずしている大男は、ニヤリと笑って鞘を掴む。


 勢いよく腕を振り、鞘から剣を引き抜いた。これが合図の代わりとなり戦いの幕が上がる。


 まず初めに勢いよく突っ込んできたのは、二頭のミノタウロスだった。どちらも上段に斧を振り上げた姿勢であり、凶暴さがこれでもかと噴き出している。


 俺はギリギリまで奴らを引きつけてから、一気に全身を加速させた。ゴリマッチョ二人の狭い間をすり抜けるところで体を一回転させ、二頭の胴体に長剣の刃を滑らせていく。


 すれ違った後、巨大な肉塊となった彼らは死を待つのみとなった。


「うおおおおりゃぁあ!」


 残すところは八頭。そのうちの一頭が唸り声を上げたカンタとやり合っている。棍棒が斧にぶち当たり、衝撃に驚いたミノタウロスだったが、それでも態勢は崩れない。


 押し返そうとしたところで、うちの世話係が放った前げりが腹に命中。勢いよくぶっ飛んだ。なんていうか、ヤクザキックそのまんまって感じ。


 ただ、他のミノタウロス達も加勢しようと向かってくる。馬鹿力とタフネスの化身のような魔物は、そう簡単にはへこたれない。このままではカンタは囲まれてしまうだろう。


「えい! えいえい!」


 ピンチに陥りかけた世話係をポーン家令嬢が救う。光の矢がいくつも連射され、牛の頭や筋肉に無視できない痛手を与えていた。


「お嬢! さすがっす!」


 魔法のダメージで態勢を崩したところを、カンタの棍棒や拳が追い討ちをかけている。強烈な鈍器による一撃は、また一頭のミノタウロスを地獄へと誘っていった。


 しかし闘牛の化身達は恐るばかりか、やられるほどに怒りを爆発させ、巨大なな斧で暴れ回る。メラニーも標的にされたが、ロイドが泡を食いながらも抱き上げてフロア内を走り続けた。


 みんなが混戦をする中、俺は真ん中にいるミノタウロスと睨み合っていた。ボスであるこいつは、他の連中よりも二倍近い巨大さを誇っている。


 そして、常にこちらの隙を窺っているのが分かりやすかった。少しでも他の奴らの加勢に動けば、一気に斧で両断をする腹づもりだろう。


 だが、俺が散歩のように距離をじっくりと詰めていくと、奴もまた打って出るしかない。


「ふん。人間如きが、この上級魔族である我々に叶うとでも思っているのか」

「上級……か。逃げおおせてきた割には、いっぱしの口を叩くじゃないか」

「な!? き、貴様! なぜそのことを知っている!?」


 ミノタウロスの小さな集団は、別大陸から同じ魔族と争って負けた。これはゲーム中で後ほど明らかになるエピソードの一つだが、ここで伝えて心理的に怯ませる手はありだと思った。


「諦めろ。お前らは滅びの道を自ら選んだのだ」

「だ、黙れ! この青白い小僧めが!」


 怒りを爆発させたミノタウロスは、右手には斧を、左手には盾を持って前に出た。あまりにも巨大なその風貌。威圧感。そして殺気。どれもがこの大陸で出会う魔物より上をいっている。


 俺は瞬時に詠唱を終わらせ、剣を持っていない左掌をボスに向けた。魔法が来ることを警戒した化け物は、盾を心持ち前に出して足を止める。


「…………………?」


 少しして、ボスが戸惑いの表情を浮かべた。魔法がくる気配が全くなかったからだ。


「け! なんだハッタリか。驚かせおって!」


 怒気が爆発し、ミノタウロスは巨体からは想像もできない走りを見せた。ただ、俺のほうは手を上げたまま動かない。


「はははぁ! 馬鹿め!」


 ボスの盾が巨大さを増したようだった。まず盾を当てて態勢を崩したところに、斧を振り下ろす。その戦い方もまたゲームと同じなのだが、ここで一つ奴に誤算が生じた。


 俺のすぐ隣にあった壁が爆発し、黒い何かが真横からミノタウロスの顔面を襲ったのだ。エリン先生より習った隕石魔法、ダークメテオが奴に牙を向いた。


「ぐ……あぁあああ!?」


 訳もわからず側転を繰り返し、ボスは子供達が閉じ込められた牢屋の近くまで吹っ飛ばされた。周囲を確認してみると、すでに牛の魔物はその半数程度が倒れたまま動かなくなっている。


 牢屋に足を運んだ時、近くにいたミノタウロスがやってきたので剣で左胸を貫いた。そのまま引き抜くと、怪物は二、三歩動いてから吐血し倒れた。


「大丈夫だったか」


 努めて淡々と、牢屋にいる子供達に声をかけてみると、みんなが口々に無事である旨を伝えてくれた。


 よし、これでもう大丈夫……と思った時だった。


「おにーさま! 後ろ!」

「坊ちゃん!」


 二人の悲鳴まじりの声がした。牢屋の子供達も必死になって何かを伝えようとしている。子供達を覆う巨大な影が、その答えを雄弁に語っていた。


「ハハハハ! 死ねええ——」

「死んだのは、お前のほうだ」

「は!?」


 やがて黒い影は真っ二つに割れて崩壊した。切られたことに気づくことなく、地獄へとその魂は向かったのだ。


 カンタが最後のミノタウロスを鉄拳制裁で屠り、隠れた怪物たちとの戦いは終わった。


 ◇


 子供達を連れて戻ると、この辺りを取りまとめる老会長が、慌てた様子で頭を下げてきた。


 小さい子供達はえんえん泣いていて、親達も心の底から安心したようだ。


「本当に……グレイド様には、なんと感謝を申し上げればよいか」

「退屈凌ぎだ。気にするな」


 無言で馬車を出すように従者に指示を出すと、会長は慌てて呼び止めようとする。


「お、お待ちくだされ。この度のお礼がまだ」

「礼はいらん。今後魔物には気をつけろ」


 別に報酬が欲しくてやったわけじゃない。多少の人気取りと、寝覚めが悪くなるのが嫌だったという理由だった。


 帰り道、カンタは興奮していて、メラニーは俺の隣ですやすや寝入っていた。ロイドはすました顔だったけれど、町に戻ると猛烈な勢いで今回のことを語って回ったことを後々になって知った。


 おかげで俺の悪辣なイメージは、ほんの僅かだが回復へと向かっていくことになる。

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