表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冥闇不道のアポストル  作者: 茅井 祐世
第一章 覚醒
9/66

第九話

 炎は、どこにも無くなっていた。目の前には、真っ二つに割れた氷と、少女の姿しか残っていない。


「君のおかげで久しぶりに外に出れたよ。本当にありがとう」


「僕の……?」


 少女はニカッと歯を見せて笑って見せた。どこか余裕のある、大人びた話し方からは想像もつかない、子どもらしい無邪気な笑顔。ダインは自分とそんなに変わらない年齢じゃないかと思った。


「そう。君の力さ。アポストルではないのかい?」


「アポストル……?」


「そう、アポストル。私の見立てだと……」


 何か言いかけたところで、少女は表情をキッと引き締め、こちらに手のひらを向ける。するとダインのすぐ後ろに、大きな氷の壁が聳え立った。それとほぼ同時に、壁に炎の矢が何本も突き立つ。突然のことに、ダインは腰を抜かしてしまった。


 騎士団が気付かぬ間に、すぐ後ろまでにじり寄っていたようだ。見えているだけで五人はいる。ダインの通ってきた道からは足音が響き、まだ人数が来ているようだ。


「まずいよ! 逃げないと」


「いやいやこんな雑兵、恐れることはないよ。私に任せたまえ」


 少女はダインの横を悠然と抜け、騎士との間に立ち塞がろうとする。しかし、途中で小さな段差につまずき、べしゃりと転ぶ。


……僅かな沈黙が流れた。


「君、悪いんだけど起こしてもらえないかい? 久々なせいで体がうまく動かないんだ」


 少女が手を伸ばした。敵は声を揃え、何かを呟いていた。


【その紅きは悪を嫌いて】


 ダインはその手を取ろうと走り寄る。たった少しの間に、たくさんのものを失ってしまった。


【灰燼に帰する聖なる輝き】


 目の前の騎士たちから迸る、燃え盛る炎のような創霊力(アフレイタス)を見ても、「もう、何も失いたくない」という気持ちだけは冷めやらなかった。


【 降り注ぐ断罪の雨となりて敵を穿ち給え】


 騎士は横一列に並び、弓を引き絞る所作を取る。その手には、弓矢の形をした弓矢が握られ、ジリジリと空気を灼く音がした。


【聖炎の矢雨(しう)


 燃え盛る矢の形をした創霊力(アフレイタス)が放たれる。その数はまるで数百の弓矢隊がそこに並んでいるかのように、視界を炎が埋め尽くした。少女が手を掲げると、氷の壁が遮るように立ちはだかるが、その数を受けきることは叶わないようだった。


 鈍い氷の割れる音と共に、弓矢が殺到する。背けた顔を矢が掠め、頬に鈍い痛みと共に焦げ跡を作る。


「危ない!」


 ダインは反射的に少女を抱き抱えて後ろへ倒れ込む。氷壁を貫いた矢が、さっきまでダインと少女の頭があったあたりを蜂の群れのように飛びすさぶ。


「うーむ。困ったな。創霊力(アフレイタス)も安定しないようだ。」


 ダインに抱えられた少女が腕を組み、むむむと唸っている。


「一体どうすれば」


「ここは君が一肌脱いでくれないと、いけなそうだ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ